「次はタコを入れてほしい。」正体 田中さんの映画レビュー(感想・評価)
次はタコを入れてほしい。
タコ焼きを食べた時にタコが入っていなかったら釈然としない。
タコを省いた分だけ小麦と青のりに手間をかけました、とかだとしてもだ。
「冤罪事件」を取り上げていながら、
「冤罪事件」における最大の課題である「人質司法問題(拷問による自白強要問題)」はスルーだった。
これでは、冤罪事件に関心のある人間にとっては、タコの入っていないタコ焼きみたいなものだ。
司法制度の課題よりも、人を描きたいということで、あえてカットしたのだろうか?
それとも、そもそも冤罪問題に興味ないのか?
あるいは社会派監督みたいなレッテルにうんざりしていて、あえてスルーしたのか?
それとも、意図的に論点をずらして課題を隠蔽したかったのか?
なんにしても、この映画は商業的には成功しているらしい。
この監督の以前の映画「新聞記者」でも、
我々の社会にとっての非常に重要な問題が、
陰謀論風味のエンタメに仕立ててあった。
それでも「反権力ぽかったらなんでも肯定する人々」には絶賛されていた。
タコ焼きにはタコが必要だと思うし、世間の人々はもっとしっかりしてほしい。
「いまのところ」だけど、
この監督が取り上げる「社会問題」は、
エンタメにもっともらしさを与える「かきわり」にすぎない印象がある。
それでも、「反権力ぽかったらなんでも肯定する人々」には支持され、
「社会問題」が無駄にエンタメとして消費されていく。
今後、この手の「社会派」の作り手と、その「社会派」の消費者を、
ファストフードのような社会派という意味で、ファスト社会派と呼びたい。
ファスト社会派による合法的なクーデターが、ポピュリズムの実態だと思う。
とはいえ、釈然としないが、美味しいタコ焼きではあった。
次はタコを入れてほしい。
インスパイアされた題材から、先に踏み出さないイメージがありますね、藤井監督。エンタメとして注意深く味付けしてるんでしょうが・・娯楽監督としては正解なんでしょう、投げっ放しって言えばそうですけど。