「優れた秀作だったと思われます、気になっている人は是非!」正体 komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
優れた秀作だったと思われます、気になっている人は是非!
(完全ネタバレなので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
結論から言うと、今作の映画『正体』は、優れた秀作だと思われ、大変面白く観ました。
まず、大量殺人の冤罪の罪を着させられた主人公・鏑木慶一を演じた横浜流星さんの素晴らしさがあったと思われます。
死刑判決を受け拘置所に収監されている主人公・鏑木慶一は、自傷行為によって救急車で搬送されその途中で脱走します。
初めの野々村和也(森本慎太郎さん)と出会った建設現場での主人公・鏑木慶一は、ほとんど周りとコミュニケーションを取るのも困難な雰囲気でしたが、その後、鏑木慶一はフリーライターとなり、社員編集者の安藤沙耶香(吉岡里帆さん)との出会いなどで次第に人間性を取り戻して行きます。
最後の酒井舞(山田杏奈さん)が働くグループホームでの主人公・鏑木慶一は、シャイさはありながら、一見、普通の人物としか感じない振る舞いをしていました。
この主人公・鏑木慶一の、脱走直後の人間不信から、最後はシャイさは残りつつの一見普通に見える振る舞いの、横浜流星さんの時間経過の演技は、それぞれ秀逸さがあったと思われます。
そして、個人的に本当に素晴らしいと思われたのが、編集者の安藤沙耶香を演じたの吉岡里帆さんの演技だったと思われます。
特に編集者の安藤沙耶香が、モンタージュの積み重ねで主人公・鏑木慶一への不信が少しづつ重なって行く表情は素晴らしかったと思われます。
その不信の積み重ねと同時に、父・安藤淳二(田中哲司さん)の痴漢冤罪を晴らしたい想いも並行して流れ、不信と、主人公・鏑木慶一の普段の振る舞いから感じた信じる想いの矛盾した感情が、吉岡里帆さんの優れた演技と、藤井道人 監督の積み重ねの優れた演出によって、見事に素晴らしく表現されていたと思われました。
もちろん、他作品でも感じている、建設現場での野々村和也を演じた森本慎太郎さんや、グループホームの職員・酒井舞を演じた山田杏奈さんなども、優れた俳優だと、1観客の私にも思われているのですが、編集者・安藤沙耶香を演じた吉岡里帆さんの演技は、作品に説得力の柱を通す、次元の違う演技だったと、僭越ながら思わされました。
(藤井道人 監督の作品の常連でもある、柔軟性自然体のリアリティを作品にもたらす黒木華さんとはまた対極的と思われる)
直線的だけど深さあるリアリティを作品にもたらす吉岡里帆さんの今作でもの素晴らしい演技だったと思われました。
そして、脇としてもう1本の太い柱を作品に通していたのが、警視庁捜査一課係長・又貫征吾を演じた山田孝之さんだったと思われます。
疑うことが職業だとも言える刑事の又貫征吾を、矛盾の背後を感じさせながら、最後まで強固に山田孝之さんが演じたからこそ、対峙する主人公・鏑木慶一が逆に輝いたと思われます。
そして刑事の又貫征吾が一貫して強固だったからこそ、又貫征吾が最後の鏑木慶一の言葉で考えを変えたことにより、最後の鏑木慶一の言葉による感動も増したと思われました。
今作の映画『正体』は、作品の内容構成と相まって、優れた俳優陣の深さと矛盾も引き受けたリアリティある演技によって、素晴らしい秀作になっていたと思われました。
惜しむらくは、警視庁刑事部長・川田誠一(松重豊さん)の、少年法の改正の広報のために冤罪を隠すなどの、ステレオタイプ的な警察描写の演出は唯一どうにかならなかったのかとは思われましたが、私的の気になった今作の欠点はそれぐらいで、それをはるかに凌駕する素晴らしい作品になっていると、僭越ながら思われました。