「逃亡劇、人間ドラマ、警察・司法の問題」正体 kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
逃亡劇、人間ドラマ、警察・司法の問題
原作は未読。
藤井道人監督は原作があろうがなかろうが、映画としてちゃんと面白いものを仕上げてくる印象。本作も脱獄した死刑囚の逃亡劇として始まりながら、なぜ彼が逃亡したのかの真相を徐々に明らかにしていく作り。感動の結末を予感させる予告編だったが、ちゃんと逃亡劇としての面白みも用意されていた。鏑木が警察の追手から逃げる映像・カメラワークに臨場感があってかなり圧倒された。
様々な逃亡先で出会う人たちと鏑木のふれあいが、容疑者としての彼の評価を変えていくという流れもいい。あれだけのイケメンであれば行く先々で女性を惚れさせていくのはわかるが、人たらしな部分も存分に発揮していく展開。本当に殺人犯なのか?という疑問を徐々に抱かせるうまい作りだった。正直、警察の捜査方法や逃亡させてしまった経緯、鏑木を追いかける段階での警察のミスなんかはちょっと粗さを感じてしまったのは事実。でも、本筋がしっかりしていたので大きな問題とは感じなかった。
涙を流すようなラストではないが終わり方もとてもいい。判決の際の音声をなくすところもさすがの演出。スリリングな逃走劇、感動的なドラマだけでなく、警察や検察の問題点、裁判が長期化するという日本の司法の限界等をさりげなくちりばめてくるところに藤井道人監督の凄みを感じた。フィクションではあるが、日本の警察大丈夫か!?と思ってしまう力がある(そう思ってしまう下地があるということでもある)。最初から最後まで目が離せない面白い、そしていい映画だった。やはり藤井道人監督はすごい。改めて強くそう思う。
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