「本当の姿を隠して、ある目的のために逃走を続ける死刑囚の男。運命に抗い続けた先に待っているのは希望か絶望か。冤罪事件を素材に描かれる人間ドラマの秀作です。」正体 もりのいぶきさんの映画レビュー(感想・評価)
本当の姿を隠して、ある目的のために逃走を続ける死刑囚の男。運命に抗い続けた先に待っているのは希望か絶望か。冤罪事件を素材に描かれる人間ドラマの秀作です。
藤井監督の作品と知りまして、久しぶりに観ようかなと。
藤井監督作品を劇場で観るのは「新聞記者」以来かと思ったら
「青春18」もそうでした。 …・_・; あらら
「新聞記者」と「青春18」の2作品、作品から受けるイメージが
違うなぁ と今更ながら思ったワケですが、さてこの作品はどん
な作品なのでしょうか。サスペンスドラマと紹介されていました
が、はて その正体は。…というわけで ・_・; 行ってきました。
さあ鑑賞開始。
刑務所か拘置所?の中。刃物のようなモノを口に銜える男。
体を震わせながらも、口の中で刃物を動かす。…痛そう*△*
やがて見回りの看守の耳に、うめき声が聞こえる。
” …? ”
声のした部屋を覗くと、床に倒れて血を吐いた男の姿。
”!! ”
病院に搬送される途中、隙をみて車内に同行した刑務官に襲いか
かる男。車内で揉み合いの末、男は救急車から逃走する。
その男が主人公、鏑木慶一(横浜流星)。
3年前、東京での惨殺事件の犯人として逮捕され、死刑判決を受け
ていた。彼には死刑執行をただ待って居られない理由があった。
逃走した鏑木の行方はしれず、警察は面目を失う。大失態だ。
懸命の捜査の目をかいくぐった鏑木、数日後に大阪にいた。
大規模な建設工事現場に、働く鏑木の姿が。
単なる潜伏なのか。それとも他に目的があるのか。
淡々と日々の作業をこなしている鏑木だったが、作業中の事故で
足をケガした同僚のため現場責任者と法律の知識を武器に慰謝料
の交渉をしたりもしている。良い奴だ。
ケガをした若い男(野々村和也)とは、俺がトモダチになってや
る と、徐々に親交が深くなる気配もあったのだが…
警察が目撃情報に懸賞金をかける中、マスコミの報道も執拗だ。
ある日、TV放送の中で伝えられた「鏑木の特徴」を知った和也。
目の前の男(=工事現場ではベンゾーと呼ばれている)が鏑木に
酷似していることに気付いてしまう。 …あら
トイレに行くと言って鏑木の前から離れた和也。
混乱する頭と震える指で、スマホのボタンを押していた。
” イチ ・イチ ・ゼロ ”
ふと顔をあげると、視線の先に鏑木の姿。こちらを見つめている。
何か言わないと…。焦るだけで言葉にならない。大量の汗。
作業を終えて戻ってきた作業員たちの姿に紛れて、鏑木の姿は
見えなくなっていた。…放心状態の和也。
こうして鏑木は、和也の前からいなくなった。
次に姿をあらわした鏑木の姿は、東京に現れる。
フリーのライターとして出版社からの依頼で原稿を書いていた。
そこで出会ったのは…
◇
といった感じで
ある場所で何らかの目的をもっているかのような行動をみせる鏑木
が、そこで接触する人たちとのささやかな交流を図りながらも、
「自分が殺人犯」と知られてしまい、逃走を繰り返していく姿が描
かれます。
その描かれる内容を通して、次第に鏑木の過去や、事件の真相に迫
っていく展開なのですが、「信頼」と「不信」の間を行き来する鏑木
の心理と行動の描写は見応えがありました。
冤罪事件をテーマに描いた「社会派ヒューマン・ドラマ」の秀作。
着地点が不幸なエンディングではありませんようにと祈りながら
鑑賞した甲斐がありました。
観て良かった。・_・
(※原作では違う終わり方みたいです…。パンフを見て知りました)
◇
それにしても、登場人物の人物描写が素晴らしいです。
鏑木が逃走中に出会い関わる3名も
自分を逮捕し、今回も捜索に関わる刑事も
週刊誌?の編集部のひとたちも
無実を信じ続ける施設の寮母さんも
登場した全員の好演に拍手☆ です。・-・/□
◇あれこれ
■導入部によるミスリード感
主人公に対してやたら「怪しい奴」のイメージを印象づけようと
する導入部が、鑑賞後に振り返ると違和感も感じまして。
「正体不明」で「行動の意味・目的不明」であっても、「危険な奴」
では無かったかな と。
「髪が伸び放題で髭面」 ⇒ 放っとけば伸びるので…
「髭を剃って髪を染める」 ⇒ ヒゲが無くなると人相も変わる
「髪を切って眉を細く」 ⇒ 長髪→短髪で優しそうな雰囲気に
思うに、出来る範囲で「自分の人相画像」から離れようとしたという
ことなのかな と。 ・_・フム
最初、「二十面相」みたいな怪しいヤツの話かと思ってしまいました。
見事にミスリードされた気がします。
■SNSの功罪
SNSで世論も味方になる場合の心強さ と
SNSで個人情報が一瞬で拡散する怖さ の
両方を改めて突きつけられたように感じます。
何気なく撮影した一枚の写真。
そこに写った情報から、被写体の個人情報やどこにいるのかまで
分かってしまうのって、とてもコワイ気がします。・_・;
認知症の行方不明者の捜索を、防犯カメラの画像やAIを駆使して
出来るようになるなら、プラスの活用の仕方もありそうですが。
使い方・考え方ひとつが難しいです。
■山田杏奈さん
このところ、アシリパさんで見慣れていたもので
現代劇の女性役に違和感を感じてしまいました…。・_・;スイマセン
■ハンバーグ
「兄弟が多くて、料理を作っていたので」だから得意なのだと。
そう沙耶香(吉岡里帆)に説明していました。
施設の子供たちが、彼にとっては兄弟だったのでしょう。
面倒見が良さそうな感じがします。
■「正体」の言葉から連想(…蛇足です。読み飛ばして下さい)
昭和のTV番組に「ダイヤモンド・アイ」というのがありました。
特撮ヒーローものです。・-・ 内容はシンプル。
ダイヤモンドアイが悪いヤツ(前世魔人!)と戦って倒すのですが
敵を倒す際にお決まりの会話がありまして…
ダ ” 汝の正体見たり 前世魔人ワレアタマ!” ←こんな名前の敵も
魔 ” バレたか~ ”
…なんといいますか。ゆるいという。ぬるいというか。
イタズラ現場を見つかった中学生か といった感じのこの会話。
これがとても好きで、毎回観てました。@_@
見覚えある方、いらっしゃいますか? (…いなそう)
◇最後に
再審の判決言い渡しの場面。
「主文」の後が無音正になり、鏑木の表情が中々変化しない中
後ろの席にいる人たちの手が拍手へと変わっていく。
この場面が印象的でした。
とても雄弁に、結果を伝えるサイレントシーンかなと思います。
※それはそうと。父さんの再審請求しないのですか?沙耶香さん
⇒ 痴漢冤罪・_・;
☆映画の感想は人さまざまかとは思いますが、このように感じた映画ファンもいるということで。
コメントありがとうございます
ご指摘通り真犯人の描写はあれで読み取らせる。と自分も感じましたが、真犯人側の動機や行動の裏付けの表現がサスペンスとしては弱いかなとも感じた
でもまぁ細かいところは置いといて
全体的に良い作品と感じました
ラストの裁判シーンも個人的には拍手はなくて各人物の表情の変化だけで終えても良かったかな〜(細かいところ置いといてない😂)
失礼しましたー
こんばんは。
冤罪は勿論絶対にあってはならない事で、考えるともう心が折れてしまいますが、、最近のドンファンの事件や長野の中学生がはねられて亡くなった事故の裁判などを見ると、もう何がなんだかわからなくなっている所です。
司法の在り方。考えても考えてもモヤが晴れません。。
レビューのSNSの功罪のくだり、とても印象に残りました。
映画としてラストを改変した点は藤井監督の判断に賛成です。
共感&コメントありがとうございます。
冤罪お父さんは再び勇気が出て控訴するんでしょうか、逃げ回るのと気持ちが折れるのはどっちが辛いんでしょうね?
ダイヤモンドアイはDVDboxを持っているのです、作品に引用される“献身”も今作と共通してるのかなぁーと、うーーっすら思いました。
おはようございます😃
今作品が、とても沁みてしまい、「青春18」以来、速攻で二回観賞したNOBUです。仰る通り、裁判長が"主文"と言った後に無音にする演出は見事でした。私はあのシーンは二回とも、パブロフの犬の如く落涙しました。では。大学で、刑事訴訟法を学んでいたので、より司法のいい加減さには、立腹しましたよ。
ダイヤモンドアイ好きでした、ダイヤの精だし、怪人グロいし頭数少ないし。
今作は、時間無いなら逃げれば良い、その後の警察、冤罪父さんのメンタルがちょっと引っかかる部分でした。