「リアリティとは何か?」正体 luna33さんの映画レビュー(感想・評価)
リアリティとは何か?
信じる事の大切さというテーマが軸になっているのはとても良かったと思うし、感動的なラストも決して悪くはない。つまり物語自体はそれなりに良いと思うのだ。でもどうしてもしっくり来なかったんだよね。なぜかと言うと、主な理由として警察の在り方や捜査手法、刑事の信念などにリアリティが感じられなかった点が個人的には非常に痛かったのだ。
鏑木(横浜流星)を追う刑事の又貫(山田孝之)は上司(松重豊)との板挟みに苦しむわけだが、又貫の刑事として人間としての行動に「説得力」や「一貫性」が圧倒的に不足していたように思えてならない。上司からの命令が絶対とは言え彼はなぜ従ったのか?葛藤を抱えながらどういう正義感で鏑木を死刑にまで追い込んだのか?また脱走した鏑木をどういう気持ちで追い詰めて行ったのか?そして最後に鏑木と対面した時に何を思ったのか?つまり又貫という人間の「生き様」に信念があるかのように描いておきながら、実は一貫性というかまとまりに欠けており、そこが物語として大きく「リアリティ」を損ねてしまう要因になった。それが本当に残念でならないのだ。
理不尽な命令には絶対に従うもんかという正義もあれば、上司が黒と言う限り絶対に黒だと信じる正義もある。つまり誰しも必ず「己の正義」があるはずなのだ(刑事という職業ならなおさらだ)。だからそのどちらかに振り切って又貫なりの「正義」を明確にして欲しかった。またもし彼の正義が「揺らぐ」のを描くのであれば、彼がもっと苦しんで崩壊して行く様を最後まできちんと描いて欲しかった。これはあくまでも僕個人の感覚だが、上司(松重豊)に付いて行くと決めたのであれば、たとえその上司が間違っていようとも一緒に地獄へ落ちて心中する「潔さ」の方が、僕にはズドンと刺さるのだ。
さらに終盤、いよいよ我慢出来なくなった又貫が記者会見で全てをひっくり返すわけだが、そこまでの彼の苦しみや葛藤、覚悟が表現し切れてないため感情移入出来なかったし、ひっくり返す事で彼もまた多くを失ったはずなのに「そういう感じでもない」のも非常に違和感があった。だから最後の面会で鏑木と普通に話す又貫の神経も全然意味が分からない。だってそこは躊躇なく鏑木に対して土下座して懺悔する所じゃないのか?と思わずにはいられなかったからだ。少なくとも刑事という仕事を通じて、又貫なりに人生を賭けて貫いてきた正義が「間違っていた」と認めるならばね。だからアンタは上司に背いてでも全てをひっくり返したんでしょ?と。何と言うか、又貫という刑事(人間)の「考え方のつじつま」が全然合ってないように思えてどうにも納得行かなかったのだ。だから又貫が「彼の正体に気づかなかったんですか?」と問いかけるのもすごくおかしいと感じる。「お前が言うな」と思ってしまうからだ。又貫が鏑木の正体を分かっていたとしても分かっていなかったとしても、どちらにしても違和感しかない。でもこういうモヤモヤ感ってやっぱり人によって感じ方にかなり違いがあるのだろうとも思う。これ上手く伝わってる自信が全くないけど(笑)
他にも警察側が「こいつでいいや」的に安易に犯人に仕立て上げておきながら、いざバレそうになると「警察の信頼は失墜する」ってくだりも何だそりゃと思うし、鏑木が唯一の証人である由子(原日出子)を探し出して証言を求める展開もちょっとどうかと思った。まあ細かい事言い出したらキリないんだけどね。ここまで散々言っておいて何だが、僕は無茶な設定もストーリーも展開も基本的には「あって良い」と思ってる。ただしそれを押し通す力(リアリティ)があればという話であり、残念ながら本作は僕にとってそうはならなかったという事だ。ちなみに僕がここで言うリアリティとは、設定や状況や展開だけでなく背景や心情なども含めて「自分が納得出来るかどうか」というリアリティの事だ。特に分かりやすいのが「悪」の描き方で、これが雑だともう本当に冷めてしまうのだ。色んな作品でよくあるが、警察の雑な動きってマジで冷めるんだよね。
ところで横浜流星君は良い役者になったなと思う反面、あまり作品に恵まれないというか(悪くはないんだけど)僕の好みの作品ではないという印象がとても強い。「春に散る」「流浪の月」なども僕的にはちょっと合わなかった。ただこの作品に対する全体的な評価は概ね高いので、あくまでも僕個人の好みの問題と言えるかなと思う。
Iuna33さん "カッコーの巣の上で"の共感とコメントありがとうございます!
上記の映画レビューが無かったのでこちらで失礼致します
確か英語では
"Least,I tried." でしたね
この言葉は当時の私にもかなり刺さりました
屁理屈ばかり言って何も挑戦しない奴よりマシだろ…との言葉
「俺は少なくともトライはしたぜ!
luna33さま
お礼と報告です。
今日でコメントデビュー1週間なので、返信場所もまだよく分からず、度々の長文お許しください。
いただいたコメントに励まされ、プレッシャーのかからない作品のレビューを書いてみました。背中を押していただいて、ありがとうございました。
11月末の報知映画賞受賞発表で、初めてYahooニュースにコメントしました。
公表されている映画賞の事実関係を整理した上で、受賞した作品と俳優のファンを傷付けて、受賞できなかった作品と俳優のファンを悲しませて、映画ファンを怒らせた…という主旨でした。
既にその記事もコメントも読むことはできませんが、私のコメントのスクショがトリミングされ、Xで拡散されていることに気付いてビックリしました。
第三者による予想もしなかった方法で、人に何かを伝えられたという結果に複雑な心境です。
追加ですみません。
「彼の正体に〜」は、(安藤か野々村かは失念しましたが)鏑木を取り逃がした直後の台詞かと。
なので、含意としては「逃亡犯だと気付かなかったのか」。
冒頭に入れることで、本当に犯人だとミスリードする意図もあったのかと。
再逮捕後の疑念がほぼ確証に変わった状態であれ言ってたらとんでもないですが…
こんにちは。
描写の浅さについては概ね同意です。
そもそも死刑囚相手に「何故逃げた」なんて訊くかな、という。
普通に死にたくないから逃げるでしょ、と作劇上の都合を感じずにはいられませんでした。
ただ一点、面会室で頭を下げなかったことについては、まだ“結論”が出てないからかと。
一度間違えた(と感じている)人間が、また確たる証拠もなく謝罪するのも違うような。
頭を下げた方が作品としてはスッキリするとは思いますけどね。笑
luna33さま
長文ですが、補足させてください。
今年の報知映画賞は、炎上してました(笑)
受賞作完成披露前にノミネートが〆切・公開3日前に突然の受賞発表・横浜流星が3年連続受賞、2年連続主演男優賞・ノミネート1位の『夜明けのすべて』も『ぼくが生きてる〜』も無冠・映画賞スポンサー企業の代表が、選考委員かつバベルレーベル(藤井監督所属)の親会社…
実際の冤罪事件の報道と映画公開のタイミングを、エンタメ作品の宣伝プロモーションに利用した賛否については、私のコメント欄でみかずきさんとやりとりしました。
11月30日授賞式のTAMA映画賞では、吉沢亮さんが主演男優賞、『ぼくが生きてる〜』が特別賞(監督・スタッフ・キャスト一同)を受賞しました。
市民ボランティアによるTAMA映画祭は、手作りで温もりを感じる、人に上下を付けない映画賞で、映画賞の在り方について考えさせられました。
luna33さま
1日3作もコメント連投、ごめんなさい。
私が☆ゼロにした理由を代弁していただけるレビューに、やっと出会えてうれしいです。
横浜流星さんは、4,5年前頃はFCに入るくらい応援してました。
『はじめて恋をする日に読む話』と『あなたの番です』で全国区になってから、出演作品に恵まれないのに人気だけ先行してしまいました。
『春に散る』は、舞台挨拶だけ掛け持ちで本編を観ずにゾロゾロ席を立つファンが目立って、それがあの作品の本当の評価だと感じました。