「心のどこかに残る違和感は、信じたいものの先に光を宿してくれるかも」正体 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
心のどこかに残る違和感は、信じたいものの先に光を宿してくれるかも
2024.11.29 イオンシネマ久御山
2024年の日本映画(120分、PG12)
原作は染井為人の同名小説
死刑囚の脱走を追う刑事と、潜伏先で知り合う人々との交流を描いた社会派ヒューマンドラマ
監督は藤井道人
脚本は小寺和久&藤井道人
物語は、拘置所内にて吐血を偽装する死刑囚・鏑木慶一(横浜流星)が、病院搬送の途上で救急車内から脱走する様子が描かれて始まる
彼の逃走に対して、刑事の又貫(山田孝之)と井澄(前田公輝)が担当にあたり、部長の川田(松重豊)の指揮で動くことになった
その頃、鏑木はキャップ場で食料や衣服などを奪った後、大阪に潜伏し、建設現場で物静かに働くようになっていた
映画は、その後鏑木と出会う人たちと又貫の取り調べのシーンが描かれ、良い印象を持っている人と悪い印象を持っている人々が描かれていく
あいつならやりそうと思う人もいれば、この人がやるとは思えないという感覚もあり、そんな感情がどうして生まれたのかを日を追って描いていく流れになっていた
大阪では、ベンゾーと呼ばれ、妙な縁からジャンプと呼ばれる野々村(森本慎太郎)と関わることになる
彼は偶然テレビで見た鏑木の映像から犯人ではないかと疑うようになり、懸賞金に釣られて発報することになった
その後、都内に潜伏した鏑木は、那須と言う名前でフリーライターを始め、ネットニュース会社に原稿を送るようになった
担当の安藤沙耶香(吉岡里帆)の信頼を経て、上司の後藤(宇野祥平)の仕事を請け負うようになっていく
後藤は鏑木の事件を洗い直していて、その音声データの文字起こしなどをしていくうちに、彼は自分の事件の知らない部分を見つけてしまう
沙耶香の父(田中哲司)が痴漢冤罪の裁判をしていたことで、記者(田島亮)が彼女にも張り付いていて、ある日の出来事以降に鏑木を泊めていることを知り、それが警察への通報へとつながっていく
又貫は沙耶香の部屋に潜伏していた鏑木を追い詰めるのだが、沙耶香が警察の盾になったことで、何とか逃げ出すことに成功した
映画は、リアルベースで突っ込んだら負けの映画で、世間を騒がせてきた事件と警察の暗部などを組み合わせたものになっている
かなりエンタメに振り切っていて、逃亡中に振り返って「ありがとう」とか言っている時点で、リアルに寄せる気はないことがわかる
警察は無能で隠蔽体質と言うところを誇張し、年末だからまともに捜査しないとか、未成年の刑罰の引き上げ関連のスケープゴートに使おうなんて話まで出てきてしまう
さらに、鏑木が有罪になった経路では、証拠となる凶器は彼が手にしたものだったが、それを手に入れた経緯、動機などは一切無視され、心身衰弱状態の「はいともいいえともわからない証言」を決定打に使っていたりする
警察も無能ならば、鏑木の弁護に回った方はさらに無能になっていて、それゆえに鏑木は自分自身で無罪を証明しようと、心身衰弱している被害者遺族(原日出子)から真相を聞き出そうと考える
それをたまたまバズったアカウントを持っている同僚の舞(山田杏奈)にライブ配信させると言う今どきっぽさがエモーショナルなのだが、世間では殺人犯だと思われている人に追い詰められて行った供述に何の意味があるかはわからない
だが、そのライブ配信を機に鏑木は冤罪ではないかと言う声が持ち上がるものの、彼が無罪に至るには長い道のりが用意されている
又貫がクビを賭けて再捜査をして、真犯人が自供をすれば話は早いと思うが、真犯人がまともに話をするとも思えない
とは言え、自分から言いたそうな感じの含みを持たせているので、犯人自身は自分の武勇伝を横取りされたことが癪に障っている可能性も否定できない
このあたりの細かな心情は察してねと言うことになっているので、原作未読でも何となく辻褄を合わせることができる程度の情報は詰め込まれていると思った
いずれにせよ、一歩間違えば感動ポルノに属されそうな内容で、ちょっと心が荒んできている人向けのセラピー映画だと思った
リアルテイストのミステリーだと思うと粗が目立つが、映画館で良い話で泣きたいと言う層には受けるだろう
演者の演技は素晴らしく、表情だけで心情が伝わるので、それを目当てに観るのも良いと思う
エンディングテーマはさほど余韻を邪魔しないし、パンフレットもインタビューが充実しているので、良かった人は買っても損はないと感じた