「カップルに見て欲しい映画。」入国審査 Jaxさんの映画レビュー(感想・評価)
カップルに見て欲しい映画。
「バービー」じゃないが、見た後のお互いの感想次第ではその後の関係をどうするかの試金石になりそうな映画である。
9.11直後、アメリカはすべてのビザ審査を停止し、以降入国審査もかなり厳しくなった。その余波はアメリカだけでなく他の国々のビザ審査にまで及んだ。そのせいで留学や移住が延期、キャンセルになり、
人生が狂わされた人々も多い。
別室に連れて行かれ、審査官に入国の目的、家族や職業、どこに住むのか、他の国じゃだめなのか…など質問されるのはまだわかるが、携帯パソコンを没収され体中を検査され、水や薬も自由に飲めず、何故こんな人権侵害すれすれの扱いを受けなければならないのかと憤るカップル。
実際に海外で就労ビザを申請したことがある身としては移民審査官の質問に胃を痛めそうになりながら見た。
家族や職業などだけならまだしも、途中からカップルの片方がベッドのどっち側に寝るとか、過去の交際相手など、二人のプライベートにまでずけずけ踏み込まれ、しまいにお互いの知らなかった不都合な事実まで明らかになって二人の雰囲気は最悪に。
とはいえ、審査官の気持ちもわかる。ビザ目的の結婚(事実婚含む)は多いし、移住目的で入国する移民が多いからだ。海外に数年住んでいたが、移民を目指してた現地邦人の間でも、現地の人とカップルになるのが一番早いとか、仕事よりパートナー(彼氏or彼女)を見つけろとか、3万ドル積めばアジア系の現地人が偽装結婚でビザサポートしてくれる、とかよく言われたものだ。(本当かどうかは知らんが)
職業や給与、スキルと違って、愛は客観的に証明不可能だ。しかしビザを持つパートナーの証明さえ出来ればスキルも英語力も給与も必要ない。合法的にその国に住める。
そのため、移住目的の人間にとって、ビザを持っているパートナーは喉から手が出るほど欲しい存在なのだ、特にこの映画のディエゴのように、悲惨な母国からなんとかして脱出したい人にとっては。文字通り、ビザに人生がかかっているのだから。
本当のカップルでも、ビザ審査中は「パートナーが今朝履いていた下着の色」まで移民審査官に聞かれることもあると聞いて、「ビザ審査中は毎日下着をお互い黒に揃えよう!」と決めてビザ審査にのぞんでいる現地の移民カップルもいた。傍から見れば馬鹿みたいな質問だが本人たちは至って真剣にならざるを得ない。もちろん本人たちの証言だけでなく、生活費が引き落とされている共同の銀行口座の証明書、二人がデートや旅行で撮った写真、共通の友人の推薦レターなどの証拠書類を山ほど用意しなくてはならない。愛は証明できないがパートナーの証明は必要なのだ。
ちなみに別居しているなど共同生活の実態がない場合、例え籍を入れていてもカップルとはみなされない。日本の、籍さえ入れていれば単身赴任でも家庭内別居でも夫婦のベッドが別でも形の上では夫婦と見なされる制度とは違うのだ。この審査において、パートナーとしての生活実態がないとみなされる夫婦は山のように日本にいるだろう。良くも悪くも。(ちなみに南半球の某国では、別居2年以上経って夫婦としての生活実態がないと証明しないと正式に離婚も出来ない。良くも悪くも紙一枚で結婚も離婚もできる日本はある意味楽かもしれない)
より悲惨なのは、カップルの片方にとっては真実の愛だったが片方はビザ目的だったという場合。その場合、ビザや永住権が取れた瞬間に別れを切り出されて、故郷に本当の婚約者がいたというひどいケースもある。国によっては別れるときに財産を半分こしなければいけないので別れたパートナーに財産を半分持って行かれることになる。
そうなるよりは審査官に尋問で見抜いてもらうほうが傷が浅いとも言える。
だからこそ審査官も真剣だ。プライベートに踏み込んだ質問もして「相手はビザ目的ではないのか」「本当に相手を愛しているのか」「信用できるのか」と揺さぶりをかける。
まあこれも愛の試練と言ったところだろうか。パートナービザを申請したことのない自分としては他人事だったが、国際結婚や移住、パートナービザの申請を目指しているカップルは是非見て胃を痛めて欲しい。
あっけないラスト、そしてエンディングの歌といい、何とも皮肉が効いている。二人に爽快感はない。この二人がどうなるのかすら描かれない。
個人的には、抽選でグリーンカードが当たって、数時間尋問されただけでアメリカのビザが取れるなら正直羨ましい。何ヶ月も何年も何十年もかけてそれでも永住権もらえない移民が世の中には山ほど居るのだから。移民チャレンジしてた自分としては数日尋問されても良いので(アメリカではないが)永住権が欲しかった。セックスの頻度も答えるし審査官の前でサンバでもリンボーダンスでもいくらでも踊ってやろう。望む国の永住権がもらえるならそれくらいお安い御用だ。
どんなに努力しても、どんなにスキルがあっても、どんなにその国を愛していても、冒頭に述べたよう9.11で人生狂わされた移民が多く居たように、タイミング次第で得られないことがあるのがビザなのだ。
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