「双方の思惑の中で選んだ選択肢も、審査の前ではほとんどが炙り出されてしまう」入国審査 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
双方の思惑の中で選んだ選択肢も、審査の前ではほとんどが炙り出されてしまう
2025.8.4 字幕 MOVIX京都
2023年のスペイン映画(77分、G)
アメリカ移住のために訪れたスペインから来たカップルの入国審査を描いたスリラー映画
監督&脚本はアレハンドロ・ロハス&フアン・セバスチャン・バスケス
原題は『La Ilegada』で「到着」、英題は『Upon Entry』で「入国するとき」という意味
物語は、スペインからアメリカ・ニューアーク国際空港へと移動するスペイン人のダンサーであるエレナ(ブルーナ・クッシ)と、彼女の恋人でベネズエラ人の都市計画家ディエゴ(アルベルト・アマン)が描かれて始まる
ディエゴは緊張状態で、入国審査のゲートで憔悴しきっていて、温和そうな審査官のいる18番ゲートが良いな、と思っていた
思惑通りに18番ゲートに誘導され、審査官ジェームズ(コリン・モルガン)の審査を受けることになった二人だったが、何かの不具合か、理由もわからないまま別の受付へと通されてしまった
そこは二次審査の待合で、受付のウィルソン(デヴィッド・コムリー)は彼らの手荷物をチェックしたのち、別室に彼らを誘導した
その後、いくつかの尋問を受けたのち、バスケス捜査官(ローラ・ゴメス)が部屋へと入ってきた
移民申請の書類などを確認したのち、入国に至るまでの経緯、二人の出会いと生活、両親との関係などを根掘り葉掘り聞いてくる
エレナは不快感を感じながらも、ディエゴは従順の方が良いと諭し、非人道的な質問にも答えることになった
物語は、入国審査にて「新たな情報の確認のため」という名目で二次審査が行われ、最終手にはバレット捜査官(ベン・テンプル)も加わっての尋問を受けることになった
そこでは、過去にディエゴが婚約寸前まで来たのにビザの申請を中断したとか、他の女性とも関係を持っていたことなどが明かされていく
それらをエレナに話したとディエゴは説明するものの、エレナは婚約の話は初耳で、しかも交際期間が重なっていることを指摘されてしまう
バスケスは「アメリカに移住するために二人の女性を利用し、最終的にエレナを選んだ」と考えていて、ディエゴはそれを否定する
だが、一連の問答を受けて、エレナの中で彼への信頼が消えていくのである
映画は、入国審査にて素性が暴露される様子が描かれ、それによって、二人の信頼が緩いでいく様子が描かれていく
捜査官の目的はカップルの破綻ではないものの、ディエゴの過去がそうさせている面もあった
審査自体は「どのような理由で入国し、ビザを所得したいのか」という部分を明らかにすることであり、「偽装結婚で入国しようとしたのではないか」という疑いを持っている
ディエゴはエレナとケイト(ネットで知り合った年上の女性)と二股状態になっていて、より確実だと思われたエレナの方を選んだように見られている
だが、ディエゴはエレナとの関係が始まったためにケイトと別れたと主張していて、その重複した部分が疑問視されていた
審査にて嘘をつくことは重罪であり、それぞれは全てを語るのだが、それぞれに配慮する形で個別の尋問に切り替えている
このあたりは捜査官の良心的な部分であり、あくまでも二人が示し合わせて偽装結婚(事実婚)をして入国しようと考えているのかを突き詰めようとしていたのだろう
結果として、経緯はどうであれ、偽装婚でのビザ所得のためではないことが理解され、それゆえに認められたのだと思うが、捜査官の思惑は別のところにあったように思えた
映画ではほぼ描かれないのだが、彼らはきちんと指紋を取られているし、ディエゴに関しては親指の指紋も取られていた
さらにエレナはスマホだけだが、ディエゴはスマホとパソコンの両方のデータを抜かれている
映画内ではディエゴの真の目的みたいな部分は濁されているが、捜査官が席を外したところで資料を盗み見たり、禁止されている通話をするなどは「やましいところ」があるように思える
それが何かはわからないものの、現時点ではグレーという感じで入国を許可されている
だが、要注意人物としてのマーキングはされているので、ディエゴにとっては不要な行動は難しくなるのではないだろうか
いずれにせよ、非人道的にも思える尋問の応酬で、ここまで聞くのか?というぐらいに聞いていたように思う
だが、偽装婚でビザ所得したのに申請を辞めたというのはかなり奇妙で、さらにネット上の相手とは婚約で、エレナとは事実婚というところも怪しさは募る
結局のところ、ベネズエラを出たいディエゴが何とかしてスペインに移住したものの、そこでの国籍所得はできぬまま、エレナの抽選ビザが通ってしまった
そこでそれに便乗しようとしていて、それをスムーズに行うために事実婚として法的な処理をしたように思えた
これらの制度にそこまで詳しくないので想像の範囲だが、いち早くアメリカへの移住をしたいという背景には、ベネズエラで何かをしたからなのかな、と思った
また、エレナ自身にも目的があって、それはディエゴを利用している部分があったと思う
彼女の最終的な目的は、スペインや両親から離れることであり、そのためにはディエゴがいた方が都合が良い部分があるのだろう
それゆえに清濁併せ呑む形で実を取ったのではないだろうか
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