「Sampling inspection」入国審査 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
Sampling inspection
『ドナルド・トランプ』は全ての移民を嫌っているのではない。
貧乏な移民が嫌いなのだ。
一期目の前回は、メキシコとの国境に壁を作るとぶち上げた。
では、その壁は今ではどうなっているか?
二期目の今回は「トランプ・ゴールドカード」の販売だ。
7.4億を支払えば、誰でも永住権を得られるという。
今でこそロシアは経済制裁の対象となってはいるが、
「オリガルヒ」にすり寄っていたのは、
〔ANORA アノーラ(2024年)〕でも描かれた通りだろう。
スペインのバルセロナに住む『エレナ(ブルーナ・クッシ)』は
グリーンカードの抽選で移民ビザに当選、
事実婚のパートナー『ディエゴ(アルベルト・アンマン)』と共に
ニューヨークの空港に降り立つ。
が、入国審査所でパスポートを没収された上に
別室へと連行され厳しい尋問が始まる。
それは拒否権すら与えられず、
外部との連絡も一切許可されぬ状態で。
あまつさえ、入国できるかどうかは
審査官の胸三寸とまで言われてしまう。
二人はこの窮地を脱せられるのか、との
{ワンシチュエーション・サスペンス}。
二人には特殊な技能があり、
当座の生活に充てる預金もある。
既に米国に永住権を持つ知己もおり、
なんの疑義もないように思える。
なのになぜ?
尋問は間違いなく理不尽。
背景は一切説明されず、同じことを繰り返し聞かれ、
疑問を挟むことや反論は一切許されない。
聴聞は微細に及び、
ここ数年の行動まではまだしも、
馴れ初めから始まり、
直近の性生活にまで及ぶのはいったい何のため、と首を傾げる。
先の審査官の科白も
場所が違えば賄賂の要求も、
ここではどうにも当たらない。
しかし『ディエド』が紛争国ベネズエラ出身で、
スペイン国籍すら申請中なことが明らかになるに及び、
観客は彼の素行に疑いの眼差しを向け始める。
『エレナ』にしても審査官から改めて
そのことを告げられると、
パートナーに対しての疑念が湧き上がる。
尋問が執拗なのに違いないものの、
緊迫感が妙に薄いのは、
二人にはスペインという帰る場所があるから。
そこには『エレナ』の両親が健在で、
友人たちも多く居る。
アメリカに移住することの
強いモチベーションはどこにあるのかが見えて来ない。
要は退路が断たれておらず、
難民のような切迫感に欠ける。
見方を変えれば、
誰にでも起こりうる、巻き込まれ形の不条理劇と言えようか。
唐突なエンディングも勘案した時に、
更にその思いが強くなる。
彼と彼女は
たまたま選ばれただけなのでは、と。
