「「法廷劇」ならぬ「尋問劇」であり、芝居のエッセンスたる会話劇だった」入国審査 LukeRacewalkerさんの映画レビュー(感想・評価)
「法廷劇」ならぬ「尋問劇」であり、芝居のエッセンスたる会話劇だった
小生、ふだんは「ネタがわかって価値が半減するような作品はそもそも大したことはない」などと不遜なことを公言しているが、もちろん、ごくたまに「さすがにこれは、ネタを書いたら反則だなぁ」という佳作もある。
これが、それ。
わずか77分の作品だが、流れる時間は濃密だった。 それにしても最後のネタは強烈におもしろい。
米国に移民するため、スペインからNYにやってきた30代の男女のカップル。
男性は都市計画の大学院を出た高学歴者だし、女性はコンテンポラリーダンスのプロのダンサー、つまり割とハイブローなアーティストである。国境のフェンスを破って密入国するような未熟練労働者たちではない。
ところが、正当な書類も揃っているのに入国審査のカウンターで引っかかり、別室に通されて「二次審査」なるものへ導かれる。携帯電話での外部への連絡も禁じられる。
そこからサスペンスの目盛りがジリジリと上がり始める。
作品のバックストーリーとして、昨今のトランプ政権の移民に対する厳しい姿勢が背景にないとは言えないし、そこを強調した評論もあるようだが、しかしそれを重要なモチーフとしているわけではない。そういう社会派ドラマではない、とだけは記しておく。
他の作品の上映前予告で「お、これは」と思い楽しみにしていた。私事ではあるが米国在住経験のある身として、あの国のこういう申請系・審査系の現場役人の融通の効かなさ、その一方でのいい加減さ、一度イヤな方向に回り始めた時の救いの無さ、木で鼻をくくったような慇懃無礼な態度・・・が甦ってきたからである。25年ほど前でさえそうだったのだから、今はもっとイヤな気分にさせられるんだろう。それをどう料理しているのか・・・そこに大いに興味があった。
それはさておき、作品のプロットとしてはまったく劇的な展開はない。
淡々と時間が流れるだけである。舞台となる場面も、入国カウンターと「別室」だけと極めて限られている。登場人物も少ない。
が、この作品には「芝居」の醍醐味、エッセンスをかなり煮詰めた、上質なスープのような旨味がある。
それは次の二点にある。
1つ目には、極めて良質な会話劇であること。
大掛かりな舞台回しや場面展開がない、机と椅子だけの簡素な舞台上でやり取りされるセリフと役者の演技だけで観る者を強烈に巻き込んでいく演劇のようですらある。
脚本と演出が相当の手練れであることの証左である。
2つ目には、その巻き込み方が法廷劇のようであること。
つまり、鑑賞する側に「どちらの言うことが真実なのか?」「この人間は『悪』なのか?」「自分がこの立場だったら、どう発言するのか?」「どちらを応援すべきか?」と考えることを否応なしに求め、時間の経過とともに揺らぎと揺さぶりをかけてくる構造になっている。
舞台は法廷ではないので、「尋問劇」とでも言って良い。この設定は新鮮だったし、非常に良いアイデアだと思う。
例によって小生は事前の予備知識を仕入れないで観るタイプなので、今、あとからいろいろと読んでいるが、アレハンドロ・ロハスとフアン・セバスティアン・バスケスの2人が監督としてクレジットされている。
初監督作品にして脚本も書いているのか。しかもロハス氏自身の経験に基づいたアイデアだった、とのこと。
おもしろかったが、さて、この監督は一発屋で終わるのか、はたまたまったく違う視点で別の心理劇を練り上げてくれるのか。次作が楽しみになってきた。
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