「ある老人のロングトレイル-なぜ野宿で、装備なしで?」ハロルド・フライのまさかの旅立ち Tama walkerさんの映画レビュー(感想・評価)
ある老人のロングトレイル-なぜ野宿で、装備なしで?
四国88か所のお遍路、約1300キロを歩いた経験からすると、800キロを60日以上かけて、というのはそんなにすごい距離ではないし、かなりのスローペース。しかしまあ、ほとんど運動もしていなかったご老人が、ロクな装備も持たずに野宿を続けながら歩くとすれば大変なのは間違いない。
ホスピスで最期を迎えようとしている昔の同僚をはげますため800キロ歩いて会いに行こうという思いつきは理解できる。ゴールに着いたあとの、もうほとんど意識がない状態の彼女との再会は、イギリス人らしい抑制されたシーンでとても胸をうたれる。主人公ハロルドの思いはたしかに届いたのだ。
そこに至るまでの800キロ、色々な人と出会いながらの長い歩き旅、というだけで十分にハートウォーミングな一篇になっただろうと思うが、この映画にはもう一つ、裏の物語が用意されている。
ハロルドは金がないわけでもないのに装備も整えず野宿をつづけながら歩く。ゴールまで歩くだけでは足りず、自分を罰しようとしているかのようだ。徐々に、彼が実は、平凡な老人というよりは、めったにない辛い体験をした人であり、自責の念を背負い続けていること、本人も妻も表面上は穏やかながら不幸な人生を送ってきたことがわかってくる。
ゴールにたどりつき、妻との関係にも何か良い方向への変化が生まれる予感が示唆されるけれど、それだけですっかり救われるわけではない。その意味では後味は苦い。
お遍路の経験は無いのですが、お接待と言うか沿道の無償の援助が、今作でも沁みる部分だったですね。特に最初脚を治療してリュック等もくれた元医師、あの後カード送り返しとか考えるきっかけになったんですかね?