「タイトルなし(ネタバレ)」フィリップ 夜さんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
『ㅤフィリップ』(原題:Filip)鑑賞
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ナチス政権時代、自身の出自を偽って何とか生き延びてきたユダヤ人男性、フィリップの物語。
発禁後、2022年に再出版されたポーランド人の作家の自伝小説を元に、官能的なストーリーを組み込んで映画化された壮絶な人生の物語という。
常にどこか緊迫感ある雰囲気を感じられる俳優さんの瞳
当時の政治による風潮、上流階級と貧困が入り混じる街。
街中でも差別的な発言や態度がある描写もあり、胸が痛みます。
同じ"外国人"の同僚たちに救われてきた場面もありますが、刹那的で虚無感が漂うフィリップが復讐の意図から女性たちを傷つけていたが、ある一人の女性との出会いにより自分自身の内面を見抜かれ、束の間癒されるような愛に目覚め、守り、強い決意をして立ち直り始める姿。
本当の愛や安らぎを感じられる出会いのあとに訪れる、危機的な状況の数々は、音楽は心音を表しているリズム感もあって、次に何が起きるかわからない緊張から観る側も心拍数が高まります。
エリック・クルム・ジュニアさんが演じるフィリップの
絶望した魂からの叫びの踊り、嘆きのシーンは、大切なものとの別れの喪失感が痛いくらいに伝わってくる。
当時の体制下で逃げ切れた人の視点ですが、生き残るためにユダヤ人であることを隠してきたフィリップの虚しさ、やり場のない怒り。
その地で命を落とさずとももう少し待ったり、やり方次第ではなんとかなったのではないか…と思ってしまう人も中にはいる。
絶望の中でも、サラとの出会いと語らいによって生きる力を取り戻せたフィリップが強く決意し行動を起こす…。
いざという時が来た時にどう立ち回るのか、寄せ集めだとしてもその場で共に過ごした同志に対してどんな時も味方でいられるのか。
誰が味方なのかもわからない状況で信頼するのか、どんな選択をするのか、行動を起こせるのか…。
これが実話というのだから改めて悲惨な争いは繰り返してはならないなとも考えさせられる映画でした。
発禁処分後、60年の時を経て2022年にようやくオリジナル版が出版されたそうです。
映画化に拍手を。歴史を記すこと、紙での記録を残すことも大事ですね。。
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映画内だからこそ、手を斜め上に掲げるあのポーズができますが、今でもあの手は海外では嫌悪され、しないように店員を呼ぶ時には腕や指先をピンと伸ばすことも避けるそうです。
日本だからあまり気にしないでしていることもあるかもしれませんが、そのような悲痛な歴史があったことには思い馳せたい。
ラストの軍隊と歌が、重く響きました。