「【”腐った世の中でも生きている事が重要だ。とフィリップはナチスに抵抗する女性に言った。”今作はゲットーで恋人、家族をナチスに殺された青年のドイツ人への”復讐”と、相反する”愛”を描いた作品である。】」フィリップ NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”腐った世の中でも生きている事が重要だ。とフィリップはナチスに抵抗する女性に言った。”今作はゲットーで恋人、家族をナチスに殺された青年のドイツ人への”復讐”と、相反する”愛”を描いた作品である。】
■1941年、ポーランド・ワルシャワのゲットー内にある劇場で、ポーランド系ユダヤ人ダンサーのフィリップ(エリック・クルム・ジュニア)と恋人のサラは舞台で踊っている時に、ナチから銃撃を受け、彼はサラと見に来ていた家族を失う。
その2年後、彼は外国籍の人間の身元を変えて利を得ていた工場長のスタシェクの手引きでフランス人としてホテルのボーイとして働きながら、戦場に行った夫を待つドイツ人女性を誘惑し、関係を持った後に自身の出自を明かしてから捨てる”復讐”を行っていた。
誘惑されたドイツ人女性達は、民族の純血を汚したとして罰せられるために、泣き寝入りするしかないのである。
◆感想
・フィリップの生活は、虚構に満ちている。そして、彼は同僚の仲の良いピエールと共に、ホテルのボーイをしながらドイツ人への”復讐”を行っている。
又、彼の出自を知っている女マレーナはそんな彼の行為を冷ややかに見ながらも、告発はしないのである。
そんな彼が、自分の理性を維持しているのはピエールに呆れられているランニングなど激しい運動を欠かさない事なのである。
・そんなフィリップが、ホテルのプールで見かけた若い美貌のドイツ人女性のリザ(カロリーナ・ハイテル)に、最初はピエールと落とせるかどうか賭けをしながら近付いて行くが、彼は徐々にリザとの恋に落ちていく。憎いドイツ人の娘なのに・・。
この辺りのフィリップ自身の理念に背反した行為は、彼の人間らしさを表しているだろう。
・フィリップは、ピエールとの同室の部屋に頻繁に来るポーランド人女性のビアンカに対して冷たい。ビアンカは、フィリップと同じようにドイツ人男性を誘惑していたからである。だが、そのビアンカがゲシュタポにより囚われ、髪を切られ逃げてきた時に懸ける”腐った世の中でも生きている事が重要だ。”という言葉が印象的であり、彼はビアンカに優しく食事とホテルからくすねた高級ワインを与えるのである。
このシーンも、印象的である。
■戦況が徐々に連合軍側が優勢に立って行く中、フィリップが勤めるホテルでは、ナチスの重要人物の子供の結婚式が行われる。
だが、その中でピエールは隠し持っていたワインがばれてしまい、ナチスのゲイの中隊長に射殺されてしまう。
その光景を見て、フィリップは中隊長に”俺は、ユダヤ人だ!俺も殺せ!”と詰め寄るが、中隊長はフィリップの形相に怖気づいたのと、その言葉を信ぜずにその場を去る。
フィリップは独り号泣した後に、ビアンカたちがナチスの将校を誘惑した後に殺害した現場を見て、残されたピストルを持ってホテルの上階に行きダンスをしているドイツ人達を次々に撃ち殺し、パリに一緒に行こうと言っていたリザの事を想い、敢えて”君には、飽きた。”と告げ、独り未来に絶望し自死したスタシェクが作ってくれていた身分証を持ってパリへ向かうのである。
<今作は、ドイツ人への憎しみを抱えたフィリップが”復讐”を続ける中、ドイツ人の娘リザと恋に落ちるも、再び独り逃走する姿を描いた、何とも遣る瀬無い物語なのである。
ラスト、フィリップが駅からパリに向かう地下道路で、ドイツ人憲兵が人々の行き先を仕分けする様も、何とも言えない気持ちになる作品でもある。>
<2024年8月4日 刈谷日劇にて鑑賞>