劇場公開日 2024年9月6日

「掛け替えのない記憶」とりつくしま 玉川上水の亀さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0掛け替えのない記憶

2024年9月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

幸せ

長編デビュー作「ほとぼりメルトサウンズ」で注目を集めた東かほりさんが監督・脚本を手がけ、自身の母でもある作家・東直子さんの小説「とりつくしま」を映画化した本作を観ていると、登場人物たちの既に失われた人生の掛け替えのない記憶が蘇り、切なさと温かさと哀しみ、そして少しのおかしみが滲み出て、心の琴線に触れてくる。
人生が終わってしまった人々の前に現れる“とりつくしま係”は、「この世に未練はありませんか。あるなら、なにかモノになって戻ることが出来ますよ」と告げる。
夫のお気に入りのマグカップになることにした妻、大好きな青いジャングルジムになった男の子、孫にあげたカメラになった祖母、ピッチャーの息子を見守る為に野球の試合で使うロージンになった母、人生の本当の最後に、モノとなって大切な人の側で過ごす時間が、本作ではファンタジックに繰り広げられる。
亡くなった人がとりつく物「とりつくしま」が、こちら側とあちら側の架け橋となり、かたちを変えて大切な人の傍にいたり、最後のお別れをする物語は切なくも、何とも言えない温もりを我々に残します。

玉川上水の亀