ぼくのお日さまのレビュー・感想・評価
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湖畔の氷上に差し込む光
映画を観る前はなるべく事前情報は入れないことにしている。聞いたことのある映画タイトルだと思っていたが、エンドロールでハンバートハンバートの「ぼくのお日さま」が流れた瞬間に、あ!これだよ!好きな曲だったじゃないか〜と嬉しくなった。ちょっと調べてみたら監督がこの曲にインスパイアされ作った映画とのこと。
主人公も父親も吃音であったが、この映画はそれを決して大変なこととは描かず、彼らのパーソナリティのひとつとしている。
奥山大史監督はタクヤとさくらには台本を渡さず撮影したとのことだが、その代わり「自己紹介文」なるものを渡し読み込んでもらい、見事に北海道の田舎町で暮らしながらスケートを好きになる小6と中1の少年、少女を見事に演じきっていた。
荒川と五十嵐の「自己紹介文」もパンフで読んでみたが、映画では描かれなかった彼らの内側の心と歩んできた道のりを知れた。荒川はこの映画の頃31歳で時代はちょうど2000年。あのVOLVOは流石に今はなかなか見れないが当時は人気があった(私もちょうどその頃、同じ車に乗っていた。色は赤だったけど)。今となっては男性同士の恋愛を気持ち悪いなんて言われることはないが、20年以上前では憧れのお兄さんがそうだとしたら少女の心は傷つくことでしょう。
明るい日差しが注ぎ込む湖畔の氷上で戯れる3人の美しさは観てるものにここでドラマは終わって欲しいと思うほどの名シーン。
春になり、それぞれの新しい道が開かれる。
タクヤが声を発するまで、さくらはゆっくり待っていてくれる筈です。
今年の邦画最高傑作のひとつとして、私の記憶にいつまでも残るであろう素晴らしい映画でした。
ピュアで美しい映像作品
初長編映画がサンセバスチャン国際映画祭で史上最年少で最優秀新人監督賞、第2作の今作でカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門にノミネートと今注目の新進気鋭監督、奥山大史の脚本、撮影、監督作。
マスコミや今レビューでも評価が高く、期待して鑑賞。
率直な感想なのだが、そこまで評価が高い意味がよくわからないのだ。
一言で言うと、ボーイミーツガールの映画。
誰もが評価している部分だがとりわけ映像が美しい。舞台であるスケートリンクに自然光が差し込み冬の寒さの中に暖かみを感じさせる。
スケートリンクでアイスホッケーの練習をしていた少年がフィギュアスケートの練習をしていた少女に心を奪われ、それに気がついた少女のコーチが2人でアイスダンスを練習することを提案し3人による、バッジテストに向けた練習が始まる。というのが大まかなストーリー。
ただ、このアウトラインだけではどこにでもある話で映画にならない。
いくつかの引っ掛かる要素が加えられている。
主人公のタクヤは吃音があり、学校でも居心地の悪さを感じている。
フィギュアのコーチは国際的に活躍していたが今は一線を退いている。また、同性愛者。
スマホがない、カセットテープで音楽を聴いている少し昔の時代設定。
などだ。
こうした要素が連動し、ただのボーイミーツガールではない物語後半に繋がるのだが・・
そうは言っても、キリキリ来るわけでも問題提起があるわけでもなくサラッと美しい。
このあたりのさじ加減が評価されているのだろうか。
奥山監督はMVやCMなども制作し、映像全般を製作する映像作家だ。
私には映画監督というより映像作家だと思えてしまう。
セリフではなく映像を繋いで物を語るのが映画であるという視点では卓越した才能を感じる。サラッとではなくググッとくる映画を撮ってくれることを期待したい。
彼女は思い出すだろうか
本作を観てから2週間以上が経つのですが、未だに感想を上手く言葉にできません。その間にも絶賛コメントを数多く目にし、ますます困惑が深まりました。
北海道のスケートリンクを舞台に、フィギュア・スケーターの少女に思いを寄せる少年、その少年の思いを理解しフィギュアスケートを教えて上げようとするリンクのコーチ、そして、そのコーチに淡い恋心を抱く少女、コーチ自身もまた秘めた思いを持っているというお話です。リンクに差し込む淡い光の描写が本当に美しく、そこを滑る少年少女の姿が愛らしいのです。もうその光景を観ているだけで心が震えて来ます。多くの絶賛コメントが寄せられるのもよく分かります。しかし僕は、本作にどうしても強い引っ掛かりを覚えてしまうのです。
本作で描かれるのと同様の、或る社会的マイノリティに身を置かれている方は、本作に深く傷つくのではないかと思います。本作でその人物は、マイノリティであるが故に偏見に晒され、抑圧され、この場から去って行きます。現実にそんな立場にある人は本作を観て、「ああ、やっぱり自分達は社会からのけ者にされるだけなのか」と暗い気持ちになるのではないでしょうか。
その様な人々を取り上げてはいけないという訳ではないし、悲劇的に扱ってはならないという訳でもありません。希望を描かねばならない訳でもありません。そんな現実があるのは事実なのですから。しかし、映画は人が創作した物語なのです。登場人物にその様な役割を与えた以上、その人たちへの脚本家・監督の眼差しをキッチリ描いておかねばならないと思います。しかし、僕には本作は「撮りっ放し」に映りました。
あの少女は10年後、20年後、この時代をどの様に思い出すでしょう。それは観る人に委ねられているのでしょうが、それを想像する縁(よすが)となる様なラインを彼女からしっかり一本引いておくべきです。それがどんなラインなのかは僕には分かりませんが。
将来、彼女は「自分はひどい事をしてしまった」と思うかも知れません。しかし、「何がひどかったのか」まで本当に気づいて呉れるでしょうか。僕には想像できません。
僕は、細かい事をグチグチ言い過ぎなのでしょうか。ポリコレ的視点に捕われ過ぎているのでしょうか。事実、一緒に観た我が家の妻は「そんな風には全然感じなかった」と言っていました。やっぱり僕が過敏なのかなぁ。
濃密な90分
どちらかというと後回しにしがちなジャンルだが、池松壮亮と高評価に惹かれ鑑賞。最近では短めの作品で場面もシーンも多いわけではないが、なぜだか体感ではものすごく濃密で豊かな時間と物語を得られた。おそらく配信になってもリストには入れるがなかなか消えないタイプの作品で、今回劇場で見ておいてよかったと思った。小型異形で80ページにもわたる大島依提亜デザインのパンフも読みごたえがありすぎて未完読。池松壮亮と若葉竜也はもちろんのこと、主役の子供たちの無表情気味の表情、スケートをしている動きと、それらを華美になりすぎずも美しくとらえた映像が魅力的だ。宇多丸さんはじめ世間では高評価のナミビアがあかんかったマタゾウだが、本作には堂々と4点を挙げたい。
年齢を重ねるということ
これは凄い作品だ
いやぁこれは凄い作品でした。
北海道の田舎町が舞台の作品。時代背景としては平成初期というところでしょうか。
フィギュアスケートの上手な女子中学生さくらと、それに憧れる吃音の小学生タクヤ、そしてそれを見守る荒川の3人のストーリー。
美しい北海道の景色がとても印象的な映画でしたが、ストーリーは懐かしく、美しく、でもとても残酷でした。
多様性が今ほど無く、男の子らしい/女の子らしい習い事というのが、自然とあった時代でしたね。
年齢も志向も異なる3人の三角関係を美しく描いた作品でした。三角関係といっても決してありきたりな恋愛ではなく、神々しい存在への憧れ、歳上男性への漠然とした憧れ、自分が叶えられない青春時代を送る2人への憧れが描かれていて、北海道の冬の透き通った空気と相俟って、本当に美しい作品。
終盤は本当に残酷でした。アイスダンス会場にさくらが来ることは無く、自分が受け入れられないことを悟った荒川は、恋人も仕事も失い、この町を後にしました。
本当はとても悔しくて悲しかっただろうに、それをタクヤには決してぶつけず、2人の幸せを祈っていたようでした。
あれから約30年、性的マイノリティの方にとって当時よりは住みやすい世の中になったでしょうか。一方で、SNS等に縛られ、子供にとってはもしかしたら窮屈な世の中になったかもしれません。
中学生になったタクヤ、道で会ったさくらに、何を話し掛けるでしょうか。観客の想像に任せるラストシーンが本当に印象深い作品でした。
青春というのは残酷で苦しく、でも本当に美しい思い出なのですね。
このような素晴らしい映画は本当に久し振りでした。映画館で観れて本当に幸せでした。
終わらせ方が納得できなかったかも
キラキラ青春
雪の降る田舎町
リンクを駆ける少年と美しく舞う少女
淡い恋心と突きつけられた現実も醜い嫉妬
全てがキラキラと輝いて眩しい青春。
視線の向こう側に気がつくのは、やはり少女
恋する乙女はひとつひとつの所作に敏感だ。
それも含めて初々しくもあり、
純粋さ故の容赦ない言葉さえ可愛くもある。
演技デビューとは思えない堂々たる存在感の
中西希亜良
演技と言うより自然体過ぎて愛らしさ爆発の
越山敬達
こんな新人ふたりのこれからが楽しみ。
それにしても池松壮亮ってスケコマシならぬ
ヒトコマシ(そんな言葉ある??(笑))じゃないですか?(笑)
あの喋り方、声、醸し出すオーラ。
人を惹きつける魅力、色気がダダ漏れ。
スケート初ってのもすごい。←語彙力(苦笑)
若葉竜也とのシーンがもっと欲しかった。
エンディングも含めての美しい空気感
序盤、当方が悪いのですがウトウトしながら鑑賞。疲れてたのと、あまりにも劇風景・音楽が心地よいのですから。「月の光」の音楽と、各シーンとも背景を程よく暈(ぼか)し、常に光を映すことで多幸感を演出しています。
タクヤが初めてアクセルを決めるシーン、3人で冬の湖で音楽に乗って踊るシーン、キャッチボールのシーン等、淡く美しく記憶に残ります。
内容については、まだまだかける程理解できていないのでもう少し考察を見て書ければと思います。
この映画て、テーマが分かるようで分からないんですよね。障害?恋愛?スポーツ?青春?LGBT?「いい意味」でボヤボヤとした人生の出来事、心の機微が表現されている心地の良い映画でした。
エンディング曲、グラフィック見事でした!
眩
作中で説明が無くとも、各登場人物の表情や画面の光によってそれぞれの感情が鋭いほど伝わる映画だった。
「さくらのスケートに視線を奪われたたくや」
「スケートが上達して喜ぶたくやと先生」
「初めてペアの姿勢になった時の恥ずかしいたくやとそれに微笑むさくら 」
「湖の上で笑顔でいる3人」
それ以外にも全ての描写が真っ直ぐに感情を伝えてくれて、眩しくて、涙が出た。
前半での3人が楽しく笑顔でいる場面とは反対に、後半では突然現れる終わりに、誰も何も悪くないからこそ誰のせいにも出来ないもどかしさと、ずっとあの笑顔を見ていたかった悲しさが止まらなかった。
先生の恋人の「俺にはここしかないけど、ここにいていいの?」といった言葉は先生のことを想う優しさに溢れていたし、スケート選手という華々しい過去を持つ彼の未来を案じていたのだろう。
他の人も言っていたが、これはハッピーエンドとは言えない。 いつかくる終わりが早く来すぎてしまっただけである。
彼女は先生に恋をしていたのかもしれない、作中に何度か先生を目で追いかけたり、たくやを見ている先生に自分を見て欲しそうにしていた。
いやただ単純に、3人でいるのが好きだったのかもしれない。さくらが何を感じていたのかはさくらにしか分からない。
しかし、偶然見てしまった同性の恋人に見せる先生をしている時とは別の表情は、彼女が先生に対して抱いていた感情を拒絶や混乱に変化させるのに十分過ぎてしまったのだろう。
たくやとさくらの人生の中で一瞬しかない貴重な思春期に起こった 「3人でいた冬」は彼らの成長の糧となる。
彼らがまた共にリンクで滑っていたらいいな 先生の優しい眼差しと一緒に。
ずっと綺麗で暖かくて光に包まれた眩しい作品だった。
光の表現とスケーティングの成長が素晴らしい
映像として圧倒的な美しさ。そして、主人公のスケーティング技術の向上が素人目にもわかるところは素晴らしいです。
不要な描写を極力避けて、登場人物達の表情や仕草、ちょっとした言葉だけで物語は展開していきます。特に湖の上での三人の練習シーンは多幸感たっぷりで素晴しく、思わず涙が。
邦画としては2024No. 1かもしれないと思っています。
ただし、一部厳し目の評価をしてる人の気持ちもわかります。
「誰も悪くない」といえばそれまでのほろ苦い展開は、その後はっきりとした回収もなく、物語の展開のための装置になっている印象はあります。
主人公の吃音設定も劇中ではあまり効果的に活かされることもなく、エンドロールの曲の素敵な感じが逆にチグハグさ増しています。
ヒロインの成長がもう少し描かれれば、多くの人がより高い評価をしたかもしれませんが、逆にラストシーンがもたらす切れ味や余韻が失われたかもしれず……。
(続きが観たい)と思わせる良作だった。
え?ここで終わり?
初恋
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