ぼくのお日さまのレビュー・感想・評価
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脆さと危うさ
この映画では脆さと危うさが常に見え隠れする。
冬の雪が溶けていくこと。
どこにでも行ける思春期の心。
男性同土が恋の道を進み続けること。
心から動かされることをやること。
言葉数が少ないことがこの映画に緊張感をもたらす。
誰もが孤独から逃れたいのに、その孤独を捨てることに恐怖を抱え、捨てたとしてもまた戻ってしまう。
それは夏が来て、冬が現れ、また夏に帰る季節と同じだ。
そんな冬の脆さに、危うさにすがりたくなる。
しらふの夢を見ているような今をまっすぐな太陽が貫く。
ぼくにとってのお日さまは何なのだろうか。
タクヤにとって、憧れであるさくら
さくらにとって、私を見てくれる荒川
五十嵐にとって、好きなことを追い続ける荒川
荒川にとって、昔の夢を見させてくれるタクヤとさくら
そのお日さまは、ふとした言葉や少しの行動で、かげりをみせてもう元には戻れない。
誰かを傷つけるくらいなら、夏のままでいい。
こうして僕たちは大人になっていく。
難しい、最後もやもや
どこまでも澄み渡っていた
美しい融解の物語
吃音の彼の眼差しはスケート少女。少女の眼差しは男性コーチ。コーチの眼差しは同棲中の彼氏と二人のアイスダンスのプロデュース。
少年少女がアイスダンスを始め、心の壁が溶け出す刹那の輝きをカメラが逃さない。心を削るように氷を削る音。雪のように溶けていく二人の関係。それでも乗り越えられなかったもの。主人公にとって数年経てば経つほどいい経験に捉えられるか、トラウマ級の失望になるかを左右する屈指のラストカット。この物語はまだ自分の中で完結せず生き続ける決定打をうつ。セリフが少ないのに本当に情報量が多くて、いろいろな感情を有した素晴らしい映画だった。
池松壮亮✕若葉竜也は強い。この関係性もね。池松壮亮が『男らしくないぞ』と叱咤するシーンも敢えてだと分かるので安心できる。
本来こんな楽しみ方をする映画じゃないんだろうけど、「担任面のドルオタ」としては『こう育って欲しい』という組み合わせが嵌まった時の格別な喜びと『この願いはエゴだったのか』と勝手に失望するのを池松壮亮演じるスケートのコーチに重ねて号泣。想いが嵌まったシーンの温かさが段違いによく撮れてる。
オープニングがこう繋がるのかという驚き。ハンバートハンバートの曲は、吃音で上手く言えないことと愛する気持ちを上手く言えないダブルミーニングにするのは、自分にとっては安直だなと思ってしまったけど、エンドロールの映像と出てくる歌詞がかわいいことかわいいこと。かなり文字が小さいんだけどこれならスタッフへのリスペクト云々の問題にならないだろうと思う。
90分という上映時間も良いね。会話してるのに聞こえない演出も、いかにスケート少女に彼が一目惚れしたのかを示すシーンも、スケート少女が同性愛のコーチに勝手に失望する様子も、とにかくセリフを排しているので、能動的に見る姿勢が問われる。でも観れる仕掛けがたくさんされている。
道民は見るべき
全てが澄んでて美しい
雪景色もそうだけど、チラチラ降ってくる所とかなんか細かい所がとても美しかった。
こんなとこで育ったら確かに心が美しくなりそうだなと思いながら観たわ。
登場人物全員ピュアなのよ。
特にタクヤ君ね。
初めて彼女を観た時にパーっと日が差すあたりから予感はしてたけど。純真無垢とはこのことだわ。彼の決して他人を責めない姿勢になんか色々うるっと来てしまった。
思春期ゆえの残酷さは、信じていたものほどショックは大きいことの裏返し。
あのキラキラした時間も本物だった証拠だと思う。
吃音の主人公とエンドロールの歌がリンクしてるのだけど、言葉が口から出るまでに同じように脳内で何度も言葉を反芻したり言いかけてはやめたりを繰り返しながら生きてるから、とても沁みる歌詞でした。
あ、あと観た後絶対カップラーメン食べたくなるよ!笑
映像も風景も登場人物も澄んでて美しい作品でした。
ちょっと心が浄化された気がする。
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