「人生はスケートの如く」ぼくのお日さま サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
人生はスケートの如く
東京テアトル×池松壮亮の信頼度たるやいなや...。あまりにいい。幸せ空間すぎる。「ルックバック」が大きな話題を呼び、2024年を代表する傑作だといわれている中、自分はこの作品を今年の顔として推したい。今後、宝物のように自分の中ですごく大切な映画になっていく気がする。鑑賞時より、鑑賞後にたくさんの思いが湧き出てくるような、尾を引くタイプの大傑作。
日本が舞台なのに、日本とは思えない圧巻の美しさと、その美しさ故に最高にマッチする洋楽。この映画を見ていると「PERFECT DAYS」同様、日常の些細なことに喜びを感じ、混沌とし生きずらい世の中だけど、この世界はまだまだ知らないことばかりで、素晴らしく美しいもので溢れていると、自信を持って言えるようになる。
極限まで削ぎ落とされているセリフ。おかげで、何気ない日常会話を含む言葉の全てが、深くこころに残ってしまう。それはまさに、楽しいことも悲しいこともどんな小さな言葉でも刺さってしまう、多感な時期を迎えた主人公・タクヤのように。この映画は『"ぼくの"お日さま』の名の通り、タクヤ目線で描かれていくため、日常がすごくキラキラと輝いて見える。
彼の目に映る、いつもの場所の新しい世界。印象深い言葉ばかりの本作の中でも、新しい世界に踏み入れることを決意したタクヤに対して、これまでと変わらず向き合い続ける友人のコウセイの優しいひとことに、じわ〜っと目頭が熱くなる。こんな友達がいるから、タクヤは飛び立てるんだろうな...。
霜の降りたような寒々しい窓辺に、じんわりと暖かいお日さまが差し込んでくる。人生の煌めきというのはいつも突然で、すごく愛おしい。真冬に使う厚い毛布みたいに、全身を包み込んでくれる情景と人の温もりが、本作最大の魅力。タクヤの真っ直ぐな目を見ていると、忘れていた子ども時代、失われた少年心を取り戻すことが出来る。心が豊かになっていくのが、沸き立つように全身に伝わってくる。この子のような純粋さとひたむきさは、いくつになっても持っておきたい。子どもに教わる、人生の教訓。外は凍えるほど冷えきっているからこそ、お日さまの光はより一層暖かい。
新鋭・奥山大史監督。商業映画デビュー作品して、この完成度は恐ろしいまである。見る前と見た後。90分で得られた幸福は何にも変え難い。大どんでん返しとか映画的な展開があるわけじゃないのに、たまらなく大好きなこの映画。少し大袈裟かもしれないが、映画を愛し続けて良かったと、そう思ってしまうほど。
整氷車を追いかけるあの構図は、間違いなく今年ベストの名シーンであり、スケート場ではなく、それ以外の場所で練習を積み重ねる子どもたちの様子もまた、忘れられない愛おしさがあった。お日さまの光によって照らされる、月の淡い光。極寒の中で繰り広げられる温もりいっぱいのアイススケートは、そんな月の光のように優しくて尊く、儚いものだった。