「美しい融解の物語」ぼくのお日さま わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)
美しい融解の物語
吃音の彼の眼差しはスケート少女。少女の眼差しは男性コーチ。コーチの眼差しは同棲中の彼氏と二人のアイスダンスのプロデュース。
少年少女がアイスダンスを始め、心の壁が溶け出す刹那の輝きをカメラが逃さない。心を削るように氷を削る音。雪のように溶けていく二人の関係。それでも乗り越えられなかったもの。主人公にとって数年経てば経つほどいい経験に捉えられるか、トラウマ級の失望になるかを左右する屈指のラストカット。この物語はまだ自分の中で完結せず生き続ける決定打をうつ。セリフが少ないのに本当に情報量が多くて、いろいろな感情を有した素晴らしい映画だった。
池松壮亮✕若葉竜也は強い。この関係性もね。池松壮亮が『男らしくないぞ』と叱咤するシーンも敢えてだと分かるので安心できる。
本来こんな楽しみ方をする映画じゃないんだろうけど、「担任面のドルオタ」としては『こう育って欲しい』という組み合わせが嵌まった時の格別な喜びと『この願いはエゴだったのか』と勝手に失望するのを池松壮亮演じるスケートのコーチに重ねて号泣。想いが嵌まったシーンの温かさが段違いによく撮れてる。
オープニングがこう繋がるのかという驚き。ハンバートハンバートの曲は、吃音で上手く言えないことと愛する気持ちを上手く言えないダブルミーニングにするのは、自分にとっては安直だなと思ってしまったけど、エンドロールの映像と出てくる歌詞がかわいいことかわいいこと。かなり文字が小さいんだけどこれならスタッフへのリスペクト云々の問題にならないだろうと思う。
90分という上映時間も良いね。会話してるのに聞こえない演出も、いかにスケート少女に彼が一目惚れしたのかを示すシーンも、スケート少女が同性愛のコーチに勝手に失望する様子も、とにかくセリフを排しているので、能動的に見る姿勢が問われる。でも観れる仕掛けがたくさんされている。