「「当たり前」の大切さに気づくことの難しさ」知らないカノジョ おけんさんの映画レビュー(感想・評価)
「当たり前」の大切さに気づくことの難しさ
めっちゃ良かった!
学生から社会人にかけたよくあるラブストーリーかと思いきや話は一転。
主人公のリクは掴んだはずの夢、富、名声、そして妻さえも無縁の存在となったパラレルワールドで目覚める。
人生がうまくいっていると思っている人ほど、観てほしい映画だと思った。
物語が進むにつれて、リクが持つ問題意識の矢印が外的要因から徐々に自分自身へと向かっていく成長過程がとてもよかった。
歌手として成功した世界線のミナミには何の悪気もなければ悪意もない。最初はフラストレーションのやり場に困るリクだったが、やがて後戻りできそうもない「当たり前」の日常にこそ大切なものが詰まっていたことに気づく。
「当たり前」の大切さに気づくことの難しさは、これまでの映画史で語り尽くされてきた議題かもしれないが、結局どんな時代であれ人間を苦しめ続ける難題なのだと思った。
この作品を観たことで、リクのようにとんでもなく過酷な体験をせずとも気持ちを改めようと思えた。それだけで、この映画を観た価値は十分にあった。
そしてなんといっても音楽。各所で挟まれるmiletの歌声が、物語の世界観をよりリアルにしていた。
ガチで上手いからこそ、ミナミが才能を開花できなかった世界線では夢を諦めた惜しさがより際立つし、逆に成功した世界線では「本来彼女は人前に立つべき存在だったのだ」と強く実感させる。
序盤のmiletの楽曲に乗せて2人の時間経過をセリフなしで描くシーンは、楽曲のドラマティックさと贅沢なカットの多さで、とても濃密な時間に感じられた。
(たった2〜3カットずつのために、それぞれ衣装・メイク・ロケ地などを準備したのかと思うとなかなかエグい…)
ラストはしっかりハッピーエンド。でも予定調和ではなく、とても綺麗な収まり方だった。
この作品を通して、本当に大切なものは、失ってから気づくものなのだと改めて思い知らされた。みんなわかっているつもりではいるけれど、意外とできていない。
どんな時も、どんな人も、たくさんの支えがあってこそ人生が成り立っている。
身近にいるたった1人の存在が、自分の人生をどれだけ良い方向に導いてくれているのか…
気づいたときにはもう遅い。なんてことにならないように。今を大切に、目の前の人を大切に。
フランス・ベルギーの原作映画もあるらしいので、そちらも観てみたくなった。