「情(じょう)のない映画」化け猫あんずちゃん バソラプンテさんの映画レビュー(感想・評価)
情(じょう)のない映画
何というか、日本古来の文化や情(じょう)の無い映画でした。
タイトルは「化け猫あんずちゃん」なのに、映画では少女が主人公だし、化け猫のエピソードとストーリーがいまいち噛み合わないし、なんか変だと感じたのですが、映画を観た後に原作漫画を見て分かりました。
映画の主人公の女の子、原作には影も形もないんですね!
当然母親も、地獄も閻魔様も出てきません。
無理やり原作漫画のエピソードを使ったせいか、どおりで登場人物が揃いも揃って情もへったくれもない人ばかりだったわけです。
たとえば、毒親の父親はもとより、祖父の和尚さんも血の繋がった孫なのになんか他人事のようにしか関わらない。田舎特有のお節介なお隣さんも出てこないし、心配する妖怪たちも金で解決しようとする。化け猫のあんずも、本気で面倒くさがって、積極的に関わろうとしない。東京の結婚の口約束をした友達以上恋人未満の男の子も、お受験優先で主人公のことはスマホ弄りより優先度が低い。
地獄の閻魔様や獄卒たちも、ヤクザのような有様で、情どころか品もない。
母親が唯一主人公のことを心配していたが、状況に流されるまま。
全体的に昭和のギャグテイストなのに、昭和の人情が無い令和のドライな映画でした。
それから個人的に気になったのは、日本文化にあまりに無頓着なところ。
まず、お寺を舞台にしながら、宗派がごちゃ混ぜ。和尚さんは真言系か浄土系の袈裟をつけているのに、お寺は日蓮宗系。仏壇も適当。途中に出てくる過去の写真も宗派ごちゃ混ぜ。(まあコレは、普通の人は気にもならない点だとは思いますが)
それから、蝉が鳴いて盆踊りをしていることから、お盆の時期だと思うのですが、和尚さんが暇そうにしている。お盆は一年のうちで一番お寺が忙しい時期でしょうに。
他には、お地蔵さんが出てくるのに、子供の守護者としてあまり活躍していない。
出てくる妖怪たちもなんかイマイチパッとしない妖怪ばかりで、しかもそれぞれの特色があまり出ていない。
この辺は、フランスとの共同制作というあたりが影響しているんですかね?
あと細かいところですが、化け猫が焼きイカを食べてましたが、猫にとってイカは毒です。化け猫だから関係ないのかもしれませんが、少々引っかかりました。(原作漫画では焼いてるだけで食べていません)
全体としては、ボケーっと見ている分には何となく面白いような気がしなくもないので、星2つぐらいにしておきます。90分と短いので、ものすごい暇で他に見るものがなかったら見てもいいかもしれません。個人的には、おすすめしませんが。
というわけで、あまりに情も素っ気もなかった母との別れの場面はこんな感じだったら良かったのになーって妄想をしてみました。
(以下妄想)
閻魔様たちに追いかけられる主人公たち。妖怪たちが宝くじで買ったスーパーカーに乗って、颯爽と登場! 逃げに逃げる。妖怪たちはそれぞれの特色を生かして足止めをしていく。最後は貧乏神まで情に絆されて手助けをする「ここは俺に任せて先に行け!」
気がつけば、化け猫あんずと娘と母親だけが和尚さんのお寺にたどり着く。
大破する車に、ボロボロの一行。いよいよ本堂の前で追い詰められる。事情を飲み込めずに目を白黒する和尚さん。
化け猫あんずが娘の前に出て庇う「閻魔様、母を慕う子と、子を思いやる母のやったこと。お目溢しを願えませんかにゃ?」
威圧的に迫る閻魔様。「世界の規則は守らなければならぬ。死んだものが現世に居てはならぬのだ!」
その時、化け猫あんずが、和尚さんに目配せをしながら言う「ところで閻魔様、激務でお忘れのようですが、今日は何の日でしたでしたかにゃー?」
ハッと何かに気がつく和尚さん。鐘撞堂に駆け寄り、梵鐘を打ち鳴らす!
トボケタようにあんずが呟く。「おや、いつの間にやら時の鐘が。今からお盆ですにゃー」
閻魔様はジッとあんずを睨む。明らかにまだ時間が早い。
冷や汗を流すあんず。
閻魔はニヤリと笑うと「お盆といえば、地獄の釜の蓋が開いて、死者がこの世に帰ってくる日。お盆であればその母親が現世におってもおかしくは無い。ワシとしたことが、忙しさのあまり日時を忘れていたようだ」
状況が飲み込めず見つめ合う母と娘。理解した途端、抱き合って喜び、閻魔にお礼を言う。
閻魔は慣れないお礼に赤くなりながら、「何のことやら。ワシは規則に従ったまで。16日の朝までには帰って来るように」と言って帰って行く。
母と娘は、それまでの空白を埋めるかのように、盆踊りなどのお盆行事を楽しむ。
楽しい時はあっという間に過ぎ15日の深夜。母はナスの精霊牛に乗りながら、娘に別れを告げる。
泣きながら母を引き止める娘に、母は優しく諭す。「今回は閻魔様のお情けで猶予をもらっただけなのよ。それを裏切ってまた逃げるわけにはいかないわ」
娘は泣きじゃくりながら「なら私があの世にいく!」と叫ぶ。
母は困ったように微笑みながら「そうねぇ、私もあなたと別れたくない。攫っていきたいわ」と呟く。
娘は喜んで叫ぶ「なら!」
母は真剣な顔で諭す「でもね、あの世に行ったらあなたは成長できない。私はね、あなたの成長を見守れなかったことが何よりの悔いなの。だからあなたには、やりたいことを何でもやり尽くして、もうこれ以上何もすることはないと満足してから、あの世に来て欲しいのよ」
娘は俯いて呟く「そんな・・・お母さんと別れたくない!」
母は泣きながら微笑み、「私はあなたがお婆ちゃんになっても、あの世で必ず待ってるから。そんなに慌てて来なくてもいいのよ。大丈夫、来年のお盆にはまた帰ってくるわよ」とウインクをして返す。
母は化け猫あんずに「娘を頼みますね」と言いのこし、和尚さんの焚く送り火の煙に導かれてあの世へ旅立つ。
あんずは「しょうがないにゃー。化け猫は寿命がないにゃ。面倒臭いけど、孫の孫ぐらいまでは面倒見てやるにゃ」と呟き母親を見送る。
娘は涙を拭い、突然、逆立ちをして見せる「お母さん!私、1人で逆立ちできるようになったから!」
母は娘の成長に泣きながら「まだまだね。来年は逆立ちで歩けるようになってるのを期待してるわ」と言い、笑顔で消えていく。
以下、本編へ続く。