劇場公開日 2024年7月19日

「姿が猫に変わるだけで、こんなに印象がキュートでまろやかになるのものでしょうか。見た目と異なり中身はおっさんという「ギャップ萌え」も発生しているようです。」化け猫あんずちゃん 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5姿が猫に変わるだけで、こんなに印象がキュートでまろやかになるのものでしょうか。見た目と異なり中身はおっさんという「ギャップ萌え」も発生しているようです。

2024年7月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

 「カラオケ行こ!」「1秒先の彼」の山下敦弘監督とアニメーション作家の久野遥子監督がタッグを組み、いましろたかしの同名コミックを日仏合作で映画化し、アヌシー国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門に出品された長編アニメーション。

●ストーリー
 ある豪雨の日、南伊豆・池照町の一角にある草成寺の住職が段ボール箱の中で鳴いている子猫を見つけます。その猫は「あんず」と名付けられて大切に育てられますが、奇妙なことに20年が過ぎても死ぬことはなく、30年経った頃には人間の言葉を話して人間のように暮らす化け猫となっていました。現在37歳のあんずちゃん(森山未來)は、飼い主であるおしょーさん(鈴木慶一)の養子となり、寺の仕事を気まぐれにこなしつつ、日常生活をおくっていたのです。たまに原付バイクに乗って移動し、マッサージ師のアルバイトもしていました。但し、ノーヘルと無免許を警察に指導された後は自転車に乗り換えています。
 見た目は愛らしいのに、食事中にオナラはするわ、立ち小便もするわ。しぐさは完全なおっさん。 おしょーさんに拾われた際に、安心させるような笑い声を掛けられており、それに似た「ニャッハッハッ」という高笑いをよくします。
 ある日、親子ゲンカしたまま行方がわからなくなっていた住職の息子の哲也(青木崇高)が、11歳の娘かりん(五藤希愛)を連れて寺に帰ってきます。かりんの世話を頼まれたあんずちゃんは、仕方なく面倒を見ることになります。
しかし逆に金をあんずちゃんにパチンコで使い込まれる等、迷惑を被ることに。またかりんには、亡くなった母に会いたいという願望があり、それを叶えて名誉挽回したいあんずちゃんは、彼女と一緒に上京するのです。さらにどういうわけか、地獄へと繰り出すことになります。

●解説
 今作の最大の特徴は、実写映像を基にアニメーションを作る「ロトスコープ」と呼ばれる手法を採用したことにあります。山下監督が演出し、撮った映像や音声に基づき、久野監督がスタッフとアニメーシを作り上げました。
 あんずを演じた。中の人”は、森山未来。ロトスコープの効果は抜群で、躍動感あふれる森山の動きと豊かな表情があんずに乗り移っています。シンプルなアニメ化ではこの味は出せなかったことでしょう。これだけで一見の価値ありです。
 山下監督は過去の実写作品と特段、変わらずに演出したといいます。「全身で芝居をするタイプ」と評するあんず役の森山未来については「猫っぽい動きを注文したりはしたけれど、わざとだらしない感じでやってくれて、苦労はありませんでした」と称賛します。 一方、久野監督は「動きが出すぎてしまうか、普通のアニメの感覚で止めすぎてしまうか。うっかりすると、どちらかになってしまう」と、難しさを語る。ただ、大きな発見もあったといいます。「人間は思ってもみない動きをするので、自分も、アニメーターたちの頭も拡張されていく感覚がありました。初めて監督という立場で長編を手がけたことで、『お芝居の大切さ』が身にしみました」。

 脚本開発にあたっては、制作に加わった仏のアニメスタジオ「MIYUプロダクション」の意見も多分に取り入れました。その結果、仏側の反応が良かったといいます。その結果、あんず以外の妖怪の登場シーンが増加。
 あんずちゃんにしか見えない貧乏神とか妖怪とかが現れるとぼけたエピソードは脱力系のコメディーとなっています。貧乏神やカエル、たぬき姿の妖怪たち。えんま大王まで出てくる後半のドタバタ劇は笑いを誘うことでしょう。同時に、かりんの母への思いが浮かび上がり、今までの反抗期一色だったあんずが、ひとりの娘として可愛らしく思えてくるのです。頼りない父親だけど、それでも親として認めているかりんの気持に触れるとき、ちょっとグッとくるものを感じることでしょう。

●感想
 姿が猫に変わるだけで、こんなに印象がキュートでまろやかになるのものでしょうか。見た目と異なり中身はおっさんという「ギャップ萌え」も発生しているようです。
 人を食った話だと、あきれることなかれ!タイトルと設定と絵柄から予想される興趣のはるか上を行く佳品でした。だらしない中年オヤジのごときあんずちゃんは情に厚い人格者~トラ柄だけに寅さん的(?)で、頼りない父親を、不満だらけでも慕うかりんを見守る。その距離感が絶妙で、多感な少女のひと夏の物語としてみずみずしいなと思えました。
 ただし、かりんの母親に会うためにあんずちゃんと地獄に行くという展開、特に閻魔様まで登場し、閻魔様の手下となる妖怪とあんずちゃんたちがバトルを繰り広げるところはぶっ飛びすぎて、ストーリーについて行けませんでした。その辺が同じ異界を描く新海誠監督作品との違いでしょう。

流山の小地蔵