「女は三界に家無し。されど、女は強し」愛に乱暴 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
女は三界に家無し。されど、女は強し
その一家は、一見平和そうに見えた。
妻『初瀬桃子(江口のりこ)』は結婚を機に退職し専業主婦に。
綺麗好きで、家の中はいつも整っている。
以前勤めていた企業の協力で、
手作り石鹸の教室の講師をし、これが好評。規模の拡大をも目論む。
夫の『真守(小泉孝太郎)』は毎朝のジョギングが日課。
母の住む母屋の隣に離れを建て、夫婦で住む。
しかし、子供はまだいない。
母の『照子(風吹ジュン)』は夫を亡くしてから日も浅いが、
気丈に振舞っている。
むやみに息子夫婦を頼ることはせず、
身の回りのことは(朝のゴミ出しを除き)なんでも自分で行う。
が、描写されるそうした生活の節々に、
なんとはなしの違和感を覚えるのは穿ち過ぎか。
もっとも、一家の周囲では不穏な動きも。
決まって餌を食べに来る野良猫が、近頃は一向に姿を見せない。
給餌皿は空になっているし、時として鳴き声も聞こえるのに。
近所のゴミ置き場では、連続放火と思われる火事が立て続けに起き、
警察は警備を強化中。
主人公の家の近くのゴミ置き場は
ルールを守らない捨て方する人が多く、鴉の溜まり場に。
彼女は独り、(綺麗好きなので)掃除をする。
その近くのアパートに住み、ホームセンターで働く外国人も、
怪しげな気配を漂わせている。
物語りが進むにつれ、一家が内包する複数の難儀が露わに。
とりわけ夫の『真守』は想像を絶するクズ男で、
確かにルックスも人当たりも良いものの、
こと女癖の悪さは唖然とするほど。
嫁姑の関係も、傍目ほど良好ではない。
喉に刺さった骨のように、互いに心を開けずにいる。
順調そうに見えた『桃子』の石鹸教室も
企業の論理の中で政争の道具にされつつある。
そして幾つかの事件は起きる。
主人公にとって弱り目に祟り目のように。
ただそれを乗り越えた先には、
生き方の新しい地平が開ける。
出ずっぱりの『江口のりこ』が出色で、
彼女の演技を観るための一本。
映画の出演本数は多いものの、
ほぼほぼが脇役で、主演作は片手を僅かに超えるほど。
とは言え力量は間違いのないところで
本作でも狂気にとらわれたように見えても、
奥底に潜む冷徹さとシニカルさを的確に演じる。
ギャグにも見える唐突な行動の表現も絶妙。
とりわけ、チェンソーを動かす時にわずかに浮かべる薄笑いには、
ぞっとすると同時にカタルシスを感じる。
各エピソードの繋ぎとエスカレーションの仕方が職人芸。
サスペンス映画のように、不穏な空気を漂わせ
次第に押し迫ってくる。
事故が起きたり死人が転がるわけではないのに
胡乱さを感じる構成は、
次の展開が待ち遠しく、一時も画面から目を離すことができない。