「私的感じた、この映画の内容としての問題点とは?」先生の白い嘘 komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
私的感じた、この映画の内容としての問題点とは?
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
今作は上映前に様々な問題が立ち上がった映画でした。
ただその是非とは別に、作品中身として評価する必要を個人的には感じ、上映前の問題はいったん忘れて鑑賞をしました。
しかし作品の中身についてもこの映画『先生の白い嘘』は、問題をかなりはらんでいると思われました。
その大きな問題の中心は、主人公・原美鈴(奈緒さん)に性加害した、早藤雅巳(風間俊介さん)の人物像が、説得力を持って描かれていない点にあると思われました。
早藤雅巳は、主人公・原美鈴に性加害を行い、その性暴力はその後も継続しています。
そして、早藤雅巳の性格は、独善的で他者への想像力が著しく欠けた病的な性格として描かれています。
ところがこの早藤雅巳の病的な性格は、日常の仕事の場面や、彼と結婚する渕野美奈子(三吉彩花さん)との関係においても、そんなに変わらないように映画では描かれています。
すると、ではなぜ美奈子は早藤雅巳と結婚しようと思えたのか?という、映画の根幹にも関わる疑問が湧いてきます。
美奈子は映画の最後に、早藤雅巳を助けようとしたからだ、という趣旨の想いを述べていました。
しかし、相手の人間を救う福祉の想いと、相手の人間を愛する想いでは、両者は似ているようで次元が全く違う話です。
なぜ美奈子は、主人公・原美鈴に性加害を加え続ける病的な性格と行為を知っていながら、早藤雅巳との、良い面・悪い面も含めて同じ立場で何十年も共有して行くことになる結婚を願ったのか?
彼を救いたいという福祉的な話だけでは、とても観客に説得力を持った回答にはならないでしょう。
しかし仮に、早藤雅巳の性格に二面性があったのなら、まだ説得的な映画になっていたと思われます。
つまり、主人公・原美鈴に性加害を加え続ける早藤雅巳の性格は裏の性格で、普段の会社や美奈子に見せていた表の性格は仕事が出来て優しく思いやりのある性格であれば、この映画はまだ説得力のある映画になったと思われます。
早藤雅巳の性格に二面性があったのなら、彼との結婚を考えていた美奈子がある時、早藤雅巳の、性加害を続けていた裏の性格を知ることになり、その彼の裏の性格を性加害として主人公・原美鈴に【だけ】その性格を見せていたのだとすれば、美奈子が、親友の主人公・原美鈴と、愛している早藤雅巳とに、引き裂かれた複雑な心情が起こっていることが、観客にも説得力を持って理解されたと思われます。
そうではなく、性加害者の早藤雅巳の病的な性格がずっと映画を通じて同じままでは、仕事場での周りの反応や、美奈子の結婚の動機や、美奈子の両親が早藤雅巳との結婚を歓迎することに、説得力が感じられず、人間描写として根本の問題があると思われました。
この人間描写の問題は、例えば、初めての性行為の場面に遭遇した中学生の新妻祐希(猪狩蒼弥さん)と、何度も性加害を行い性行為に慣れてしまっている早藤雅巳が、同じ”女性器に対する恐れ”を持っているという(私には間違っていると思われる)解釈を、修正出来ていない点にも表れていると思われます。
もしかしたら女性側からは、男性は女性器に対してずっと恐れを持ち続ける存在であると勘違いはあるのかもしれませんが、男性側からすれば、性行為に慣れれば女性器に対する恐れはなくなっているのが通常だと思われます。
また、早藤雅巳が性加害を行っているのは-(もしかしたら早藤雅巳が子供の頃に両親、特に母親との精神的な関係性に失敗しているのが原因とは考えられるかもですが)、”女性器への恐れ”が性加害の原因になるという解釈は、どう考えても、恐れている女性器に自らの性器を何度も触れてしまっている行為について説明不可能で、破綻した論理にしかなっていないと思われます。
そしてこの映画は上映前に、「10人くらいに主演をお願いしましたが、ことごとく断られました。」「奈緒さん側からは『インティマシー・コーディネーター(略)を入れて欲しい』と言われました。すごく考えた末に、入れない方法論を考えました。間に人を入れたくなかったんです。」という三木康一郎監督の不用意な発言で大問題に発展します。
私は、性描写の撮影場面に関して役者側のインティマシー・コーディネーターを入れて欲しいとの要望を断るという話に驚きしかありませんでした。
しかしそれ以上に、その後に役者側も納得してインティマシー・コーディネーターはなしで撮影が進められたのに、なぜわざわざ監督からその話を公開前のインタビューで公にしたのか理解不能でした。
また「10人くらいに主演を(略)ことごとく断られました。」などとのこの時のエピソードも作品内容的には不用意以外の何物もなかったと思われます。
そして、この監督の不用意な発言の根本は、特に、性加害を行っていた早藤雅巳や、彼と結婚する渕野美奈子を、深い人間理解の無いまま描いても問題ないと思ってしまった、作品内容にも現れていたと思われました。
作品題材的には重要な題材であり、他の監督であればもしかしたらもっと深みある作品になっていたと思われますので、1観客としても今作の内容演出とその後の不用意な振る舞いから来る三木康一郎監督には、痛恨以上の残念さを映画の鑑賞後に感じました。
ただ、主人公・原美鈴を演じた奈緒さんや、相手中学生の新妻祐希を演じた猪狩蒼弥さんには素晴らしさも感じ、今回の点数となりました。
個人的には猛省の後に、次こそはちゃんとした深い人間理解に基づいた作品作りを、今作の制作側や監督にはして欲しいと、僭越ながら思われました。