「きちんと作られていた作品でした」先生の白い嘘 kab_mtrさんの映画レビュー(感想・評価)
きちんと作られていた作品でした
公開前にいろいろありましたが、見ないと何にも言えないと思ってるので見てきました。
感想は人によるだろうというのは前提として、きちんと作られた映画だと私は思いました。エロだとも男性目線だとも思わなかったです。
監督は「美鈴の気持ちがわからないところがあった」とインタビューで言っていたけれど、だからこそそこは女性である脚本の安達さんと奈緒さんの解釈、演技にゆだねてる印象。キャストも脚本も監督も制作陣もふんばってると思います。
ただやはり映画では尺が足りないですね。例えば母親役が片岡礼子さんであることを考えると、早藤親子のシーンも撮っていたけど、編集で削らなければならなかったのではないかと。こういうことがほかにもあって役の奥行きは出し切れなかった。
それでも主要人物、特に美鈴、早藤、美奈子、それぞれのゆがみや嫌悪、一筋縄ではいかない関係性、自分でも理解しきれない感情は感じられたし、いろいろ制限ある中、がんばってつくったんだろうなと思います。
インティマシーコーディネーター問題については、私も記事でつけなかったと知って驚いた側です。俳優が希望したのにつけなかったのはまずかったと思います。
ただ、映画を見たあとで正直「間に人を入れたくなかった」と言った監督の気持ちも想像できてしまいました。
記事によると、企画から公開まで10年かかっているそうです。その間に10人以上の女優に断られた。当時奈緒さんは美鈴役には若すぎて検討にも入ってなかった。それが年月たつうちに奈緒さんが対象年齢に達し、「受けてくれたことに感謝している」と。
今でこそ一般人にも認知が進んでいるけれど、企画段階ではインティマシーコーディネーターなんて概念は日本はもちろん海外でもなかったはずです。Wikipedia情報で恐縮ですが、米国でさえガイドラインができたのが2017年、HBOが初めて導入したのが2018年だそうです。
それ以前からこの映画は企画され、出来を見るに多分監督と脚本家は深く議論し、作者とも丁寧にコミュニケーションを取って練り上げてきたんじゃないですかね。女優含め方々に話を持ち込み、断られ、苦労してやっと制作にこぎ着けたんだろうなと思います。
その過程でインティマシーコーディネーターという役割が出てきた。日本に今でさえ2人しかいない状況、撮影が始まる段階では、インティマシーコーディネーターが何をしてくれるのか、挟むことで俳優とのコミュニケーションはどうなるのか、脚本や撮影はどうなるのか、そもそもインティマシーコーディネーターとどうコミュニケーションをとるのか、専門家ってどういうことか、制作陣は具体的にイメージできなかったんじゃないかと想像します。
そんな状況で、長年丁寧に取り組んできた作品に、その過程を知らない第三者が入ることに不安を感じ、今回についてはむしろ俳優と丁寧なやりとりをして取り組んだほうがいいんじゃないかと判断したとしたら、、、想像に難くありません。知ってるのと実際に制作に入れるのでは違いますから。監督が挙げてたスケジュール問題ももちろんあったと思います。
あと監督が主に責められているけれど、それならその責めは事務所も負うべきではないかと思いました。事務所は所属俳優を守る立場だし、突っぱねればいい。失礼ながら三木監督にそこまで力あるとも思えません。
本作は進む理解と実際の環境整備の狭間にできた作品かなと。今後はインティマシーコーディネーターが活躍する環境になるととてもいいと当然ながら思います。
なお、もしもこの映画につける前提で考えるなら、ケアは風間俊介さんにもつけてほしいです。暴力を振るわれる女性の役をやる奈緒さんはもちろんだけど、「全く理解できない」と思いながら加虐する役をこの精度で演じた風間さんの精神的負担は相当なものではと思いました。