「場外戦も勃発したけど、作品そのものも散らかっていたような・・・」先生の白い嘘 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
場外戦も勃発したけど、作品そのものも散らかっていたような・・・
撮影の際に、主演の奈緒がインティマシー・コーディネーターをいれるよう申し出たものの、三木康一郎監督が断ったことが報じられ、公開初日から場外戦が繰り広げられてしまった本作でしたが、公開初日に観に行って来ました。
インティマシー・コーディネーターの件はまずは脇に置くとして、内容的には疑問符がたくさん付くお話でした。その疑問符の最大のものは、主要登場人物のキャラクター設定やその内心が謎というもので、特に奈緒演じる美鈴をレイプし続ける早藤の位置づけが、本当に理解できませんでした。本作の売り文句としては、「男女の性の不条理に切り込む衝撃作」ということのようですが、レイプにより最終的に塀の向こうに行くことになる早藤という人物を男性の代表選手に起用されても、「はいそうですか」と簡単に同意できるものではありません。
もちろん塀の向こうに行かずとも、強引に性交渉を迫る男は腐るほどいるとは思いますが、そうは言ってもみんながみんな塀の向こうまで行く訳ではありません。そんな中で、塀の向こうまで行ってしまうような人物を「性の不条理」という普遍的なテーマを扱う作品に登場させた理由を、もっと説明して欲しかったなと感じたところです。彼が何ゆえに嫌がる女を犯すことしか考えていないのか、その動機とかなんなら彼の生い立ちに潜む事情などを、もう少し掘り下げて貰わないと、早藤というキャラクターは単なるモンスターにしかなりえないと思います。
ところが、少なくとも作中においては、美鈴は早藤に対して、「あなたを許す」と発言していたし、彼の妻になった美奈子に至っては、「私がいないと彼はダメなの」とまで発言させていました。親友に対して、レイプどころか暴行まで働き、下手したら殺していたかもしれないような人物を愛し続けられる理由も、単に子供がいるからということだけでは説明できないように感じました。
以上、早藤のキャラクター設定が理解できず、結果作品全体に納得感を得られないお話でしたが、もう一つ気になったことがありました。それは美鈴の教え子である新妻にまつわる話。彼は作中、バイト先の花屋の奥さんとラブホテルに行ったところを目撃され、それをクラスで暴露されました。さらに彼が美鈴の自宅を訪問した際に、美鈴とキスをしたところを写真に撮られ、これまた学校内で写真が出回りました。一回だけの話ならいざ知らず。二回も下ネタが目撃されて学校でみんなが知るところになるとなると、彼にはパパラッチが付いているのでしょうか?彼にまつわるこの二回のエピソードが、いずれも美鈴の人生を左右する出来事になっており、話の設定上そうしたのかも知れませんが、ちょっとご都合主義が過ぎるのではないかなと感じたところでした。
最後にインティマシー・コーディネーターの件。このような職業があることを知ったのは今年の初め頃だったか。確かテレビのニュースで紹介があったように記憶しているのですが、その時の解説では、”今後の”映画界では性的描写があるような映画を制作する場合、インティマシー・コーディネーターが必須になって行くだろうというような取り上げ方をしていました。
一方本作でインティマシー・コーディネーターをいれるかいれないかという話になったのは2年前だそうで、その時点ではまだ日本においては一般化されていなかったものと言うことも出来ます。だとすると、インティマシー・コーディネーターをいれなかった三木監督の判断には、情状酌量の余地が十分にあるような気もするのですが、どうもネット記事を読む限りバッシングが主流になっているようです。まあ現時点で判断すれば、間違いなくインティマシー・コーディネーターを起用しておいた方が、あらゆる意味でリスクヘッジになったと思いますが、覆水盆に返らずなので、今回の一件を、映画界全体として今後に活かして欲しいと思った次第です。
そんな訳で、作品外でいろいろと議論を生む”話題作”となった作品ですが、作品そのものを観ると疑問点が多かったことから、本作の評価は★2とします。
美奈子については、彼女の言う「強烈な母性」が早藤にも働いたのだと解釈しました。
これも、自分が男故に“母性”を拡大解釈している面は否めませんが。
ラブホの件は、女子生徒が度々“ああいう行為”をしていた点から有り得なくはない。
でも、キス写真の方はどう考えても謎ですよね…