劇場公開日 2024年6月28日

「珠玉の青春ドラマ」ルックバック ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0珠玉の青春ドラマ

2024年7月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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楽しい

 才能のある者とそうでない者の友情は、描き方次第では酷く残酷な物語にもなり得るが、原作掲載が少年誌の「ジャンプ+」ということもあろう。リリシズム溢れるタッチで清々しく描かれており、藤野と京本のやり取りを微笑ましく観ることが出来た。ネガティヴなコンプレックスを跳ね返すようなサクセスストーリーにも爽快感が湧く。このあたりは同じ集英社で連載されていた漫画「バクマン。」を連想した。

 しかし中盤で、ある衝撃的な事件が起こり、映画はシビアなトーンに切り替わっていく。物語の文脈上、やや唐突に映るが、その意外性も含めてドラマが一気に跳ね上がったという印象を持った。

 そして、終盤にかけてのスリリングな展開も良い。甘ったるい妄想の世界に堕することなく、きっちりと現実を見据えた結末に好感が持てる。

 映画は藤野の後ろ姿で始まり後ろ姿で終わる。この構成もタイトルの意味が反芻され印象深い。思えば、本作には藤野や京本の後ろ姿のカットが印象的に反復されていることに気付かされる。
 例えば、手を繋いで走る町のシーンでは京本から見た藤野の後ろ姿が、二人が出会うシーンでは藤野から見た京本の後ろ姿が描かれている。そしてこれらのシーンは終盤で再びニュアンスを変えて反復されるのだ。

 コンビで漫画を描く藤野と京本は並び立つ存在とも言えるが、実は小学生の頃からずっとお互いに背中を追いかけていた関係なのかもしれない。そう思うと、ラストカットの藤野の後ろ姿には、それを見守る京本の存在を意識せずにはいられない。

 アニメーションとしてのクオリティも中々に高い。ポップで洗練された流行の絵とは一線を画したリアル寄りなタッチが物語に生々しい息吹を与えている。
 また、本来であれば3DCGで表現して然るべきところを、手描き風なタッチで仕上げており、このあたりは原作のイメージを損なわないようにした製作陣のこだわりが感じられる。

 藤野役の河合優実、京本役の吉田美月喜もリアル寄りな世界観に寄せた演技で良かったと思う。特に吉田は東北の訛りを自然に入れながら、引きこもりのコミュ障という難役を上手に表現していたと思う。

 本作で唯一残念だったのは、ドラマに余り広がりが感じられないことだろうか。京本のバックストーリーが希薄だったり、二人の交流がダイジェスト風にしか表現されていない等、物足りなさも覚えた。原作は単行本1冊分しかないので、本作も約60分の中編となっている。この辺りは仕方がないといった感じである。

 尚、後半で描かれる”ある事件”については、一部で言われているように自分も京アニ事件を連想させられた。原作者の藤本氏が意識していたかどうかは分からないが、少なくとも本作は漫画に限らずアニメや小説、映画、美術といったクリエイティブな職業に就く人々にエールを送るドラマだと捉えているので、こうした連想を抱くのは仕方がないことなのかもしれない。

ありの