「秀逸! ただ少々人を選ぶ。」ルックバック バソラプンテさんの映画レビュー(感想・評価)
秀逸! ただ少々人を選ぶ。
秀逸な映画でした。
まず、タイトルが秀逸。
ルックバックという短いタイトルに、「私の背中を見てついてこい!」「行き詰まった時は過去を振り返って初心を思い出せ!」「背景にも刮目せよ!」と、いくつものメッセージが込められている。
映像に関しても秀逸。
綺麗な映像であるがそれだけでは無い。
ただ背中を見せて漫画を描いているだけの単調な場面を、背景の方を徐々に変化させることで時間の経過を示す。
努力という目に見えないものをスケッチブックの量という目に見えるものに変換する。
敢えて似たような画面を使い、差異でメッセージを伝える。
単調なのに単調では無いという矛盾。
音楽も秀逸。
昨今、歌詞でストレートにメッセージを伝える映画が多い中、楽曲で勝負。無音すらメッセージとしている。
シナリオもなかなか。
まあ、どっちかが死ぬんだろうな〜とは予想付きましたが、if展開がなかなかグッときました。
様々なオマージュも散りばめられており、中でも京アニ事件への追悼とアンサーにもなっていると思います。
そして何より、全編を通じて全力で伝えてくる「創作の苦しみと喜び」が胸に来ました。
「テクニック云々より取り敢えずひたすら描け!」「どんなものであれ完成させることが大前提であり、それが出来ない人がほとんど」「創作は苦しくて単調でつまらない作業がほとんどだけど、とにかく続けろ!」「評価されない冬の時代があっても、とにかく続けろ!」「続けられなくなったら、自分がなぜ創作を始めたのか、初心を思い出せ!」「その先に喜びがあるから創作はやめられない」「さあまた、産みの苦しみを続けよう!」
これは、個人的にはどストレートに突き刺さりましたが、
どんな些細な作品でもいいから、一度でも何らか創作を作り上げて、他人の目に晒したことのある人にしか分からないメッセージかもしれません。
その点では人を選ぶ映画かもしれません。
1時間にも満たない短編映画ですが、3時間ダラダラ見せられる映画より、グッと中身の濃い、良い映画でした。
全体としては、非常に秀逸なのですが、少々見る人を選び、万人には勧められないと思うので、星4にしておきます。