室町無頼 : 特集
「SHOGUN 将軍」「侍タイムスリッパー」に続く、
令和時代劇ブームの“集大成”が、ついに来た! 王道、
しかし新しい! 室町時代、民衆が権力に立ち向かった、
知られざる戦国前夜の熱き物語【映画.com激推しの良作】
「SHOGUN 将軍」「侍タイムスリッパー」「首」「レジェンド&バタフライ」――近年の映画界を語るうえで外せないのが、熱い熱い、灼熱の時代劇の波。
そう、映画界はまさに強者揃いの
盛り上がりが最高潮を迎えている今、“集大成”的な作品である「室町無頼」が、2025年1月17日から公開される(IMAXは1月10日~先行公開)。
室町時代を舞台にした本作の主人公は、歴史書にただ一度だけその名を留める男・蓮田兵衛(はすだ ひょうえ)。この男を、大泉洋がとんでもなく格好よく演じ切っている。
弱き者たちが権力に挑むエンタメ全開の王道のストーリーでありながら、「こんなの観たことない!」という斬新さも詰まった本作。
この特集では、「室町無頼」の魅力に迫りつつ、絶対に映画館で観るべき理由を紹介していく。
時代劇ファンたちの新年は、本作で幕を開ける!
「SHOGUN」「侍タイ」…今、映画界を時代劇が席巻!
そこに“集大成”の作品が公開――観る以外の選択がない
冒頭でも触れた通り、近年は時代劇がとてつもなくキテいる。まずは、このブームの流れを振り返りつつ、「室町無頼」の魅力に迫っていこう。
[令和の時代劇が熱い、熱すぎる①] 「レジェンド&バタフライ」「SHOGUN 将軍」「侍タイムスリッパー」世界の映画・ドラマを盛り上げる歴史的傑作が続々! 世はまさに大時代劇時代!
「燃えよ剣」(21)、「首」(23)、少し遡れば「関ケ原」(17)、「のぼうの城」(12)など、近年、時代劇の傑作は枚挙にいとまがない。
その傾向に拍車がかかり続けており、特にこの1、2年は木村拓哉が織田信長を演じた「レジェンド&バタフライ」(23)、エミー賞史上最多の受賞記録を樹立した「SHOGUN 将軍」(24)、1館から全国上映へと広がっていった「侍タイムスリッパー」(24)といった“歴史的傑作”が短いスパンで誕生。世はまさに大時代劇時代に突入している。
そんななか、新たに公開されるのが「室町無頼」。キャスト、スタッフ、ストーリー、アクション……どれも時代劇ブームの“集大成”となりうるほど最強レベルの要素がそろった本作は、ブームをもうひと盛り上がりさせるような“起爆剤”としても期待されている。
[令和の時代劇が熱い、熱すぎる②] ブームのさなかやってきた「室町無頼」=王道で圧倒的、そして斬新! アクション、テーマ、世界観、どれをとっても“集大成”にふさわしい…2025年のスタートに体感すべき大スケール作!
主人公は、日本の歴史において初めて武士階級として一揆を起こした室町時代の人物・蓮田兵衛(演:大泉洋)。「日本の歴史において初めて武士階級として一揆を起こした」……非常に大事なところなので繰り返しておく。
1461年、応仁の乱前夜の京。大飢饉と疫病によって路上には無数の死体が積み重なり、人身売買や奴隷労働も横行していた。しかし時の権力者は無能で、享楽の日々を過ごすばかり。
己の腕と才覚だけで混沌の世を生きる兵衛は、ひそかに倒幕と世直しを画策し、立ち上がる時を狙っていた。
一方、並外れた武術の才能を秘めながらも天涯孤独で夢も希望もない日々を過ごしていた青年・才蔵(演:長尾謙杜)は、兵衛に見出されて、鍛えられ手下に。
やがて兵衛のもとにさまざまな無頼=アウトローたちが集い、巨大な権力に向けて暴動を仕掛けていくが、そんな彼らの前に、兵衛のかつての悪友・骨皮道賢(演:堤真一)率いる幕府軍が立ちはだかる。
一見、王道のストーリーではあるが、驚くほど新鮮なアクションが良いアクセントに。特に、六尺棒を使う才蔵の修行シーンに目を奪われ(ジャッキー・チェンに代表される香港映画っぽい雰囲気)、対決シーンには使用されている楽曲などからもマカロニ・ウェスタンのエッセンスも感じられる。
おしゃれなカメラワークもふんだんで、これまでの時代劇とは一線を画す妙味が盛り込まれまくっている。
腐った政治に対して民衆たちが立ち上がるテーマも現代を映しており、まさに今こそ観るべき映画と言えよう。緊張感MAXの一揆のシーンは迫力たっぷりで、新年にふさわしい“お祭り”感が漂っていることも、新年に本作をおすすめしたい理由の一つである。
なぜ本作は歴史的傑作に比肩? 歴史書のたった1行
から誕生した、知られざる物語【映画.comが推す理由】
ここからは、本作がなぜこれまで挙げた時代劇作品と肩を並べるのかを詳しく解説していく。読み進めれば、「室町無頼」の特徴が一気にわかり、鑑賞意欲が刺激されるはずだ。
[時代劇ファンに贈る ①]これは珍しい…舞台は室町時代! 物語のベースは史実、しかし主人公・蓮田兵衛って…誰だ!? 実在だが無名の人物、その活躍を描くからこそワクワクする!
室町時代が映画で扱われるのはかなり珍しく、近年の有名な作品だと「犬王」「もののけ姫」などにとどまる。主人公・蓮田兵衛の知名度も低く、歴史好き以外(……いや、おそらく歴史好きにも)深く知られていない時代&人物を描くからこそ、その冒険に好奇心が刺激されていく。
そして何より伝えたいのは、本作、なかなか展開が読めないということ。蓮田兵衛は武士階級として初めて一揆を起こした人物ではあるが、そこに至るまでの経緯はほぼ知られていない。そのため、「史実を知っていれば展開が予想できる」があまり通用しない作品なのだ。
入江悠監督(「22年目の告白 私が殺人犯です」「あんのこと」)が「名もなき雑草のような人が主人公というのが面白かった」(撮影現場取材にて)と話す通り、知らないからこそ物語に没頭し、気付いたら前のめりで鑑賞している。
[時代劇ファンに贈る②]はじまりは、たった一行の史実だった… 入江悠監督が実に7年がかりで調べ上げて生まれた、“誰も知らない”応仁の乱・戦国前夜の物語
実は本作、企画立ち上げから完成までには8年という長い道のりがある点もドラマチックだ。
構想期間に約4年を費やし、いざクランクインとなった段階でコロナ禍に突入し、延期に。その後も3回ほど撮影延期となったが、入江監督は情熱の火を絶やさず、準備期間ができたことで室町時代や日本の中世について調べに調べあげていったという(記事最後のレビューで詳述)。
室町時代についての資料があまりないからこそ、作劇の自由度が高かったそうで、超格差社会だったこの時代を「『マッドマックス』のような世界観にする!」と舵を切り、粉塵が舞う荒々しい和製「マッドマックス」とも言える世界観を作り上げた。
[時代劇ファンに贈る③]名優・大泉洋“史上最もかっこいい男”! 極大の“器”を持つ、誰もが憧れる主人公に…そこに立ちはだかるのはなんと…堤真一!
主演を務めた大泉は、オファー時に「大泉洋史上、もっともかっこいい役」と口説かれたそうだ。
「探偵はBARにいる」シリーズなど、これまでも格好いい役柄は演じてきたので、さすがに盛っているのでは……と若干心配になったが、ご安心を。熱い信念があり、自分より他人のために命を懸けられる兵衛を、とてつもなく格好良く演じている。
脇を固める俳優陣も熱演が光り、才蔵役の長尾謙杜は前半と後半で変化していく目の演技に驚かされた。アクションのキレと迫力も素晴らしく、「るろうに剣心」第一作で佐藤健を目撃した衝撃を彷彿とさせた。
さらには兵衛の悪友であり、やがて対立していく骨皮道賢役の堤真一は、さすがの存在感で本作をより重厚な作品へと押し上げている。大泉洋との対決が、作品の大きな見どころとなる。
[時代劇ファンに贈る④]アクションが壮絶・本格・未体験! いったいどう撮っている…!? 斬新かつ新感覚な殺陣が、あなたの“すべての時代劇”を刷新する――?
大きな見どころとなるアクションシーンは、大泉・堤・長尾が三者三様のアクションに挑戦。クライマックスでは、ワイヤーアクションとワンカットアクションなどの技巧を駆使した「これ一体どうやって撮ったのか?」と驚く大立ち回りがあり、全編通じて“本作ならでは”の気迫に満ちたアクションシーンを作り上げた。
なお、全国公開に先駆けて、1月10日からは東映制作映画として初のIMAX上映が決定。あなたの“すべての時代劇”を刷新するかもしれない、力に満ちた本作を、絶対に映画館の大スクリーンで見届けてほしい。
【実際に観た】時代劇の“真髄”は、映画館にこそあり!
狂気の沙汰レベルの世界観が、俳優たちの心を動かす
最後に、映画.com副編集長・大塚史貴が「やっぱり映画館で観る時代劇は素晴らしい」と感じたというレビューを掲載していく。
本作の撮影現場を取材している大塚は、プロフェッショナルがそろったスタッフたちの熱意も汲み取り、「観る者を戦国前夜の室町時代へといざなう娯楽大作」だと激賞している。
・筆者紹介
■8年間を無駄にしなかった入江組の“熱意”が、俳優たちの心を動かす
「大泉洋史上、最も格好いい役を演じて欲しい」
主演俳優に対する口説き文句が偽りでなかったことは、本編を観れば一目瞭然。ただ今作、それだけにあらず。製作陣は、コロナ禍などで幾度となく延期の憂き目に遭いながら決して諦めず、入江悠監督は室町時代についての文献を読み漁り、8年間という準備期間を無駄にしなかった。
美術部もまた研究書を読み、博物館を巡り、京の街を歩き回ることで室町時代を真摯に学び、一切の妥協を排し本物にこだわった。須藤泰司プロデューサーが「狂気の沙汰」とこぼすほど丁寧に作り込まれた世界観が用意されれば、俳優たちの心を動かすことは難しくない。
大泉扮する蓮田兵衛が率いる一揆勢が命を燃やしながら駆け抜けていく盛大な“祭”を見届けるには、やはり劇場の大スクリーンこそふさわしい。
「レジェンド&バタフライ」で大友啓史を唸らせたヘアメイクディレクター・酒井啓介は、延べ5000人に及ぶエキストラにまで目を光らせ、生活の印として泥や黒ずみなど“汚し”を加えることでスクリーンの隅々にまで当時を生きる人々としてよみがえらせた。
撮影現場では、荒廃した都に横たわる骸(むくろ)にまでこだわるスタッフの姿に、否応なしに引き込まれた。
■戦国前夜の室町時代へといざなう…… “王道”と“覇道”が表裏一体となった規格外のアクションを骨の髄まで体感して
「るろうに剣心」シリーズでワイヤーコーディネーターを務めた川澄朋章と、京都の殺陣師・清家一斗が交わることで、“王道”と“覇道”が表裏一体となり、規格外のアクションを成立させた。大泉、堤真一、長尾謙杜が三者三様のアクションをものにした背景を知ればこそ、京都の撮影所に集ったプロフェッショナルたちの仕事ぶりに自ずと意識が向かう。
一番の見せ場といえる一揆のシーンは、鳴り響く太鼓や雪崩れ込む群衆の歌声を耳にするうち、自分が時代のうねりの中にいるような錯覚に陥ることもできるだろう。観る者を戦国前夜の室町時代へといざなう娯楽大作は、スクリーンにとことん身を任せ、骨の髄まで体感することを推奨する。
細部にまで作り手たちが込めた“魂”を見つければこそ、やはり映画館で観る時代劇は素晴らしいと唸らざるを得ない。