劇場公開日 2025年1月17日

「珍しい室町時代。一揆シーンの迫力が見どころ」室町無頼 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0珍しい室町時代。一揆シーンの迫力が見どころ

2025年1月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

単純

興奮

「大泉洋作品にハズレは無い」と言うのが俺の経験則。プラス、いつも作品に厚みを持たせる堤真一も出ているとなれば観ない手はない。

【物語】
舞台は1461年の京都。大飢饉と疫病が同時に発生。民は日々の暮らしに困窮し、街はずれには死体が山積みになっていた。浪人侍の蓮田兵衛(大泉洋)は庶民の暮らしの惨状を目の当たりにして室町幕府の無策にやり切れない思いを抱いていた。

幕府から市中警護を任されている骨皮道賢(堤真一)は若い時に一緒に天下を取る夢を語り合った幼馴染であり、兵衛は骨皮に協力することもあった。あるとき、頼まれ事の報酬の一部として、骨皮が悪徳高利貸しから救い出した若者・才蔵(長尾謙杜)を兵衛は子分として受け取る。

兵衛は天涯孤独だが、志だけは高い才蔵の資質を見抜き、武芸の修行のために旧知の老人(柄本明)に預けて鍛える。また、一方で借金に苦しむ庶民の暮らしを救済するために1年掛けて密かに世直し一揆を企てていた。

1年後、兵衛の思いに共感した京周辺の浪人、無頼漢たちが兵衛の下に集結し、武芸を極めた才蔵も兵衛の下に戻る。そして、いよいよ兵衛たちは立ち上がる。

【感想】
かなりの大作であり、力作だった。

時代劇と言えば、半分以上が戦国時代、残りが江戸時代という感じなので、室町時代の作品は観た記憶が無い。かつ、中学時代から歴史に興味が薄い俺なので室町時代と言えば、室町幕府は足利家が興し、応仁の乱で戦国時代に突入、くらいしか頭に残っていない。こんな男が居たなんて知る由も無し(笑)

それでも、「実在のモデルが居る」と聞くと興味が湧くものだ。鑑賞後に調べたことだが、1461年とは応仁の乱の数年前だと知ると、なるほど作品で描かれる脆弱な幕府の体制が納得できる。 室町幕府は形式的には信長に将軍が追い出されるまでさらに100年以上続くわけだが、幕府の実効支配力というところでは、この作品の時代に既に末期状態だったのだろう。どこの国でも民の暮らしを守れない政治体制は長続きしないと思うので、至極納得。

そんな時代に民の不満を集めて、幕府に立ち向かうという話なのでストーリー的には痛快だ。幕府を倒すことが目的ではないというところも、面白い話だった。

ところで、そもそも”無頼”ってなんだ? と観てから思いググってみると、「一定の職業を持たず、無法なことをすること。 また、そのさまやその人。」と有った。なるほど、兵衛が興した一揆自体が“無頼”であり、兵衛の下に集まった輩は無頼と呼ぶに相応しいわけだ。タイトルにすごく納得。

設定的に面白いのは兵衛と骨皮の関係。現在の立場は取り締る側と取り締られる側、敵対する関係でありながら、旧知の仲である彼らは裏で持ちつ持たれつの関係にある。しかし、兵衛も志を果たすための大一番では骨皮を裏切らざるを得ない。骨皮も「クソッ」と思いつつも兵衛の裏切りを心中では赦しているように見える。兵衛の行動を赦した上で、自分の立場として兵衛と相見える。 そこに清々しさを感じた。

クライマックスの一揆シーンは迫力満点。いわゆる時代劇の合戦シーンと考えると、殺陣や両軍がぶつかり合う様は雑で完成度が低い感じもするが、“無頼”達は必ずしも訓練もされていなければ、きれいに統率された組織的集団でないことを考えればそれでいいのかも。 とにかく相当な人数を狭い都の街中を走らせ、ぶつかり合う様はとにかく迫力がある。

一方、やや疑問に思うのは才蔵の位置付け。才蔵の武者修行に結構な時間を割いているのだが、その割には本番の戦いでの存在感が薄い。実在ならまだしも、俺が調べた限りでは架空っぽい。 才蔵の存在が脚色であるなら半端感は否めない。 才蔵の存在を削って、その分兵衛と骨皮の若い頃の関係性描写に時間を割いた方が物語の厚みを増せたのでは?

と言うことで、不満もあるものの、作品の熱量を十分楽しめた。

泣き虫オヤジ