劇場公開日 2025年1月17日

「おふざけを封印した大泉洋がマジにカッコイイ!アクションスターとしての一面を堪能できました。加えて高利貸しと盗賊一味に虐げられる農民たちに寄せる篤い人情は、やはり彼ならではのものですね。」室町無頼 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0おふざけを封印した大泉洋がマジにカッコイイ!アクションスターとしての一面を堪能できました。加えて高利貸しと盗賊一味に虐げられる農民たちに寄せる篤い人情は、やはり彼ならではのものですね。

2025年1月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

興奮

 映画化の企画は2017年頃に動き出しており、企画プロデュースの須藤泰司は「史上最高にかっこいい大泉洋」を口説き文句に大泉に主演を依頼し、堤真一の起用も決定していました。しかしながら、コロナ禍の影響で製作が延期され、監督の入江のスケジュールもあって、撮影は2023年になってからとなって、ようやく公開にこぎ着けた作品となりました。
 原作は、垣根涼介の時代小説。それを大泉洋主演で実写映画化した戦国アクション。「22年目の告白 私が殺人犯です」の入江悠が監督・脚本を手がけ、日本の歴史において初めて武士階級として一揆を起こした室町時代の人物・蓮田兵衛の知られざる戦いをドラマチックに描かれます。

●ストーリー
 1461年、応仁の乱前夜の京。大飢饉と疫病がこの国を襲いました。賀茂川ベリにはたった二ヶ月で八万を超える死体が積まれ、人身売買、奴隷労働が横行したのです。しかし時の権力者は無能で、享楽の日々を過ごすばかり。
 冒頭。将軍のため、奴隷のように働かされる人々が映し出されます。そこに男が現れ、現場を牛耳る幕府側の人間を水辺に蹴り落とし、道ばたで空腹に苦しむ女性に食べ物を差し出して去って行きます。一見すると、心優しく恐れるものはないヒーロー。主人公の蓮田兵衛(大泉洋)でした。この兵衛、実は剣の達人で、恐ろしいほど強かったのです。
 一方、並外れた武術の才能を秘めながらも天涯孤独で餓死寸前を生き延びた青年・才蔵(長尾謙杜)は、絶望の中にいました。独学で学んだ棒術の腕を買われて、金貸し業の法妙坊暁信(三宅弘城)に用心棒として雇われます。
 ある時、骨皮道賢(堤真一)が法妙坊暁信を襲撃し、才蔵が孤軍奮闘したことで、道賢に拾われます。しかし、才蔵は腕は立つけれど道賢が率いる足軽には向いていなかったことから、蓮田兵衛に売られることになったのです。
 兵衛は、才蔵に兵法者として生きる道を与えるために唐崎の老人(柄本明)に預けまする。血のにじむような修行を終えた才蔵は、超人的な棒術を身につけ、もはや無敵の強さに成長したのです。そして一介の兵法者となって兵衛の元に帰ってきます。
 そんな中、己の腕と才覚だけで混沌の世を生きる自由人・兵衛はひそかに倒幕と世直しを画策し、立ち上がる時を狙っていたのでした。
 時はやって来ました。
 兵衛のもとに集ったのは、才蔵だけでなく、抜刀術の達人、槍使い、金棒の怪力男、洋弓の朝鮮娘ら、個性たっぷりの無頼たちでした。兵衛は無頼たちや浪人、農民を束ねて、ついに巨大な権力に向けて、京の市中を舞台に空前絶後の都市暴動を仕掛けます。
 行く手を阻むのは、洛中警護役を担う骨皮道賢。兵衛と道賢はかつて志を同じくした悪友ながら、道を違えた間柄でした。
 かつては道賢、いまは兵衛の想い人である高級遊女の芳王子(松本若菜)が二人の突き進む運命を静かに見届ける中、兵衛は命を賭けた戦いに挑むのです。

●解説
 大泉は持ち前の親しみやすさも相まって、普段はひときわ穏やかで朗らかに見えるが、剣を抜けば一変します。
大泉洋史上最高にカッコいい男という宣伝文句は、決して誇張ではありません。初めて挑んだという本格的な殺陣も、特訓の成果を発揮して見事にこなしてみせています。50歳を超えた彼の新境地と言えるでしょう。

 兵衛は実在したとされる人物で、この映画が描くのは1461年、応仁の乱が勃発する直前の京都。歴史書にたった一行だけ描かれた史実と実名が、こんな壮大なスペクタルに膨らませてしまったことには驚きです。

 序盤、兵衛と才蔵が関所破りをするシーンでまず、爆破のすさまじさに驚かされました。才蔵が棒術の達人のもとで特訓を積む一連の場面でも、あっと驚くアクションの数々が堪能できます。極めつきは一揆の迫力。300人ものエキストラを集めたといい、人々がたいまつ片手に京の街を駆け抜ける姿は圧巻の一言。その群衆の中に放り込まれたかのような映像体験を味わえました。
 現在IMAXによる先行上映期間中ですが、IMAXでの見応え充分です。

 「あんのこと」などの入江悠監督が脚本も手がけ、東映京都撮影所を拠点に撮影が行われました。随所に時代劇のプロたちの職人技が光ります。昨秋に公開された『侍タイムスリッパー』『十一人の賊軍』に続き、再び東映京都撮影所が本気の時代劇を作りました。原作は直木賞作家、垣根涼介の同名小説で、舞台は映像作品の題材になりにくかったとされる室町時代。けれどこんな混沌とした時代だからこそ、ヒーローの活躍が一段と喝采を呼ぶドラマが生まれやすいものだ思います。
 欲を言えばもっと幕府側のだらしなさを描いてほしかったですが、何より感じ取るべきなのは権力に屈しない兵衛たちの意志の強さと、行動に移せる力でしょう。加えて、幕府軍との衝突を巧妙に避けて、金貸しが集まる二条通りまで一揆勢を無キズで温存させる知略も素晴らしいところです。一揆に加わった人々にはそれぞれドラマがあり、感情移入もたやすいことでしょう。
 どこか閉塞感の漂う時代は今も同じ。そこに風穴を開けんとする、新年にふさわしい一本です。

流山の小地蔵
じきょうさんのコメント
2025年1月16日

詳細な解説で、見終わったあとで、それぞれの場面が思い浮かびました

じきょう