「黙詩録」クワイエット・プレイス DAY 1 かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
黙詩録
“クワイエット・プレイス・シリーズ”のスピンオフ作品。エミリー・ブランド演じるお母さんと子供たちが登場するシリーズ前日譚として紹介されている。最近は、アメリカ大統領選挙関係のYouTube動画ばかり見ていたせいか、どうも脳ミソがトランプ推しの人々に大分洗脳されてしまった気がする。ニュートラルなポジションに一度頭を戻したいと思っているあなたに、是非お勧めの一本だ。
音に反応するエイリアンが今回も人間を襲いまくるのだが、そのエイリアンたちを人間がやっつけるようなリベンジ・ストーリーにはなっていない。ある意味“世の中が終わる”ことを受け入れた、不治の病におかされたアフリカ系女子サミラ(ルピタ・ニョンゴ)とロースクールに通っていた英国人青年エリック(ジョセフ・クイン)のショートロードムービーになっている。何ともおとなしい介護猫(名前はフロド)を連れて、2人はハーレムにある老舗ピザ屋を目指す。
音を立てれば即座に襲われるため、ひそひそ声でしゃべる必要最低限の会話だけ。効果音を除けばほぼサイレントに近い映画なのである。(現実にはあり得ない)静けさが辺りを支配するNYマンハッタンで、避難船へ向かう人の流れに逆らうようにピザ屋を目指す男と女。外は嵐、激しい落雷と雨音で、部屋の中の会話もエイリアンには届かない。詩人でもある余命幾ばくもないサミラが以前出版した詩を、エイリアンの来襲で人生計画が大幅に狂い困惑するエリックが読み上げる。
悪い計算
(医者に)1年から2年といわれ 2年が過ぎた
4ヶ月から半年といわれ 半年が過ぎた .....
簡単な算数だけで長いこと生きてきた
それ以上必要なかった それ以下も
4そして3へ さらにもっと小さい数字へ
数ヵ月 数日 数時間 数秒
でもまだだ
もう長くは生きられないとわかった時、人間は今ある生にしがみつき、やはり延命を計ろうとするのだろうか。それとも、エイリアンによる突然の来襲と不治の病というダブルショックに見舞われてもなお人間は、サミラのように希望の灯りをともし続けることが出来るのだろうか。フロドの導きで“九生”を得た(命の危険を何度も切り抜けた)2人は、たとえもうすぐ死ぬとわかっている人生でも意味があることを悟ったに違いない。“この世で最後の一枚”を食べることができなかったとしても。