「ホラーなのにちょっと感動」クワイエット・プレイス DAY 1 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
ホラーなのにちょっと感動
ホラー作品は苦手なのですが、たまたまシリーズ前2作を鑑賞してしまったので、謎のクリーチャーの秘密が気になって、公開初日に鑑賞してきました。本編上映前に、ウォーミングアップと言わんばかりにホラー作品の予告3連発があり、心拍数が跳ね上がり、すでに軽く疲れてしまいました。このまま最後まで心臓がもつかと思いましたが、心霊や呪いの類とは違いますし、グロ描写もほとんどなかったので、なんとか最後まで楽しむことができました。
ストーリーは、ニューヨークのホスピスで愛猫と暮らすサミラが、外出した先の市街地で、隕石のように降り注いできた数多くのクリーチャーたちに襲われ、破壊され廃墟と化した街の中でたまたま出会ったエリックとともに、橋を落とされて封鎖されたマンハッタンからの脱出をめざすというもの。
開幕後、主人公の今後の行動動機に関わる現在の状況を軽く感じ取らせたところで、早くも奴らが襲来します。以降は、観客も息を押し殺してただひたすらスクリーンを見つめるしかありません。公開初日にしては寂しく、観客は10人程度でしたが、飲食する者は皆無で、一致団結して気配を消していました。もはや観客も避難民と一蓮托生のサバイバル鑑賞となるのですが、これが本作の醍醐味と言えるでしょう。
内容的には、いきなり地獄絵図と化したマンハッタンから脱出する姿を描くだけという、非常にシンプルなものです。それなのに、限りある命を燃やし尽くすことの大切さ、身の回りにある自然の豊かさを、重要なテーマとして内包しているようで、ちょっと胸が熱くなります。
思えば、冒頭のシーンで印象的に描かれる、我が身を蝕む病に悲観して世の中のすべてにツバを吐くようなサミラと、都会で暮らす人々が生じさせている大音量の生活雑音。特に珍しくもない、どこにでもある普通の光景です。それが、ラストで描かれるのは、自分の命の使い道を定めて全うしたことの清々しさに包まれるサミラ、彼女の周囲の風や木々や鳥たちが奏でる自然音と彼女の心に流れる思い出のメロディ。冒頭との鮮やかな対比に、温かなものが沁みてきます。
前作までの主人公家族の物語ではなく、新たな主人公で忌まわしきDAY1を別の地点から描き直すことに疑問もありましたが、それでも観てよかったと思えます。ただ、結局本作でもクリーチャーについてはわからないことだらけで、この先の解決の光明も示されなかったのは残念です。とはいえ、逆に言えば、前作未鑑賞でも全く問題ありません。それこそ、DAY1のニューヨーク市民と同じ感覚で、理不尽な恐怖を味わえるでしょう。興味のある方はぜひ劇場でご覧ください。
主演はルピタ・ニョンゴで、ほぼ出ずっぱりで本作を支えます。脇を固めるのは、ジョセフ・クイン、ジャイモン・フンスーら。