劇場公開日 2024年6月7日

「思わぬサスペンス展開はいいけれど、論理がいい加減で浅く残念」かくしごと クニオさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5思わぬサスペンス展開はいいけれど、論理がいい加減で浅く残念

2024年6月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

単純

難しい

 認知症のお話でしょうから重いだろうなぁ、を覚悟して鑑賞しましたが、佐津川愛美演ずる友人役の久江が居酒屋でビールを二杯飲んだにも関わらず「これくらい平気よ」と帰途車を運転と言い放った瞬間に、私の中の違和感が一挙に暴発してしまいました。文化庁の援助も頂いている映画なのにアンチモラルな描写でいいのかしら?とドギマギしてましたら、案の定の必罰展開で逆にホッとしたくらい。ここから転調しサスペンス色が強まる作劇で、スクリーンへの集中を欠くことはありませんでした。

 「かくしごと」ってタイトルが意味深で、主人公千沙子役の杏と友人の久江の2人の人には言えない事件の隠し事が第一義ですが、どんでん返し的ラストでもう一つの隠し事が明らかになり、エンタテインメントに真相の奥深さを描く力技を見せつけてくれる。さらに千沙子は「書く仕事」に就いておりそのセレブリティが悲劇を導いてしまう構造が巧みです。であれば東京を留守に長野の山奥に長期滞在しようと金銭的に何の支障もないわけで。脚本も監督の関根光才ですが、原作があるようでそのタイトルが「嘘」とのこと。その原題タイトルがラストにセリフで出される仕組みが巧妙でもあります。

 それを(設定上9歳)少年役の子役の口から言わせ、あまつさえ悪役(なおかつ少年の継父)が殺害される瞬間を目の前で受け止める役を演じさせるとは大丈夫? と思って心配するくらい。扮する中須翔真君は実年齢が現時点で13歳ですが、ハードな撮影がトラウマにならなければいいのですがね。フツーはカットバックで殺害現場で恐怖の表情の子役を描いても、当然に別撮りでしょうから。

 嘘に対峙すべき本作のテーマは認知症だったはず、ここでも本作は意外な展開に観客を引きずり込む。名脇役の酒向芳扮する医者のセリフ「認知症は逃げ場なのかもしれません」と。生真面目な人ほど思いの丈を押し殺し、救いの先の忘却に逃げてしまうと。原作由来と思われますが、確かに一面を表しているでしょうけれど、当のご本人達にしたら詭弁でもありましょう。なにより本作のキーマンであるべき奥田瑛二扮する認知症老人が、本作の主旋律に些かも関わらず、伴奏に終始しているようにしか見えないのも、そんな観点が遠因かもです。

 演ずる奥田も常に猫背でうつむき状態、確かにセリフは奥田の声ですがお顔をなかなか正面から捉えないのは、他でもない本作自体が認知症と正面きっていない証左とも思われます。娘のセリフにも、父を要介護と認定さえしてくれればさっさと施設に送り込んでしまいたいと、あけすけに言うのですから。クライマックスでも最初に刃物を突き付けたのは父親だったのに、その後は裁判でも一切触れず仕舞い。忘却に逃避したと言う老人が娘の危機に、刃で立ち向かおうとした事実と論理が破綻していませんか? 本作の大きな瑕疵がここにある。

 主役の杏は当然に実体験でも母親でしかも離婚と、身の丈にあった演技で、子供喪失の深みは十分に伝わりました。東京で颯爽とキャリアを積んだ大人の女性として、ふんわりボブのヘアスタイルが様になってます。けれど、いつまでたっても美しいヘアスタイルのままってのは、監督さんいけませんよ。フランスからちょいと日本に出稼ぎに、映画の主演しておりますって感が漂ってしまうのですから。少年の母親に裁判で吐露させるのも中途半端で奥がないのも残念。

 わざわざ古臭い中古のクラウンバンを主人公の愛車にする意味も、一家を訪ねる際のスパイもどきの調査員なりすましも無謀で堂に入り過ぎ、バンジージャンプの真相も一切描かず、少年対軽自動車の事故なのにケガひとつない? 諸々推敲不足が否めず残念です。

クニオ