劇場公開日 2024年5月24日

「フランス語とアラビア語/英語のセリフが字幕上でも区別できた!」バティモン5 望まれざる者 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5フランス語とアラビア語/英語のセリフが字幕上でも区別できた!

2024年6月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

背景は映画「レ・ミゼラブル(2019)」と同じパリの郊外(バンリュー)、社会派の問題を取り扱う。やや既視感があった。製作陣だけでなく、登場する俳優にも共通性があり、一方、前作の冒頭(サッカーW/Cでのフランス代表の勝利)のような華やかさには欠けていた。
低所得者用の賃貸集合住宅(HLM)に見えるけれど、作中の説明に従えば、それぞれの部屋は分譲されている5号館(Batiment 5)が舞台。外観はル・コルビュジエ風だから、できたのは70年代か。エレベーターも動いておらず、セキュリティーの配慮はなし、移民たちが住んでスラム化している。無許可の食堂まである。以前にはユダヤ系の移民が暮らしていた痕跡が出てくる。
ある出来事があって、その地域(モンヴィリエという仮想の市)を支配している政党(おそらく極右)の談合により、未だ若い小児科医である市会議員ピエール・フォルジュが、市長代理に任命される。彼は、そのポストに就いたとたん、本来持っていた正義感が前面に出てきて、老朽化した建物の住民を強制的に追い出し、建て替えようとする。当然、住民たちとの緊張が高まり、衝突する。前作では、警察の犯罪対策班と少年たちの争いが中心だったが、本作では、行政側と住民の抗争が中心。政治色が強まった。
時代は、マリからの移民である監督ラジ・リがさまざまな経験をした2005年頃らしい。ピエールは、アラブ系、アフリカ系の移民たちには冷たいが、英語しか話さないシリアからの難民は、キリスト教の信者だからという理由で大事にする。移民にも変化がある。移民1世から中心は2世、3世に移行しつつあり、それまでフランス社会の発展を底辺から圧倒的に支えてきたマグレブからの移民(アラブ系)に、サハラ砂漠以南のアフリカからの移民が増えている。1世がいるとアラビア語が聞こえてきて、日本語字幕でもフランス語とは区別されていた。
移民とはいえ、2世、3世ともなれば完全にフランス人だ。そこで、リーダーになろうとする者が出てくる。マリからの移民2世であるアビーは、市役所でインターンをしながら、移民の支援団体を運営しているが、彼女がピエールに対抗して市長選に挑むというわけだ。
ラジ・リは組織化が得意で、政治への参加も厭わないが、信条は非暴力、それがアビーの行動に反映している。しかし、アフリカ系の若者の暴力傾向を、本当に抑制できるのだろうか。アラブ系に多かったイスラム教色もやや薄れ、クリスマスにツリーを飾り、プレゼントを贈るところまででてくる。前作で出てきたロマのような特異な人たちや、悪に手を染めながらも、解決策を見出そうとする副市長のロジェにもさらに活躍して欲しかった。次回作は27年か。また観たい。

詠み人知らず