「「夏休み」というよりも「ひと夏の経験」と呼んだほうが良さそうな、人生最初の転換期を描いた作品です。似たような事を体験した人なら共感度は大かも。」クレオの夏休み もりのいぶきさんの映画レビュー(感想・評価)
「夏休み」というよりも「ひと夏の経験」と呼んだほうが良さそうな、人生最初の転換期を描いた作品です。似たような事を体験した人なら共感度は大かも。
主役の女の子の表情が豊かで変化に富んでいて、どんな
作品なのかと内容が気になりました。半年くらい前に観
た「コット、はじまりの夏」のような少女の成長の物語
といった作品なのかな? と想像しながら鑑賞です。
さあ鑑賞開始。
割と直ぐに「コット」とは違うなと気付きました。・_・ハイ
主人公のクレオは6才の女の子。パリで父と乳母のグロリアと
3人で暮らしています。母親は病気で亡くなっていて、グロリア
の役割も最初は乳母だったと思われますが、今ではクレオのお世
話を中心に、ハウスキーパー全般に渡っているよう感じです。
クレオにとって、グロリアは大事な家族の一人になっています。
そんな夏のある日。
グロリアに入った電話が、これまでの生活を一変させる事に。
アフリカで暮らすグロリアの母が亡くなったのです。グロリア
の家に残されたのは、グロリアの娘と息子の二人だけ。
” 家に帰って、二人の世話をしなければいけない ”
クレオの父と話もついて、アフリカに帰る日が決まります。
仕方のないコト…。そう割り切ろうとするのですが、クレオは
まだ6才。悲しくて、寂しくて。心が落ち着きません。
” 夏休みになったら私の国においで ”
グロリアが残した言葉を心の支えに生活しながら、アフリカ
行きの事を父に話すのですが、真剣には取り合ってくれず…
次第に情緒不安定になっていくクレオ…。
ついには、父の運転する車から無理に降りて歩きだしたりと…。
そんなクレオの心の痛みがようやく父に伝わり、グロリアに連絡
を取ってくれました。
やっと、アフリカのグロリアの家に行くことが出来る。
その気持ちだけで、気持ちが弾むクレオでしたが…。
◇
この後、アフリカに到着してからの数日間にクレオに起きる出来事
が描かれていく訳ですが、邦題にある「夏休み」のようなゆるくて
緩い体験が待っていた …という訳ではありません。(えっ)
…むしろ、グロリアの家族との同居生活は、クレオのこれまでの
立ち位置を一変させることになっていきます。
グロリアの娘は、妊娠中でした。父親は不明。(なのかな?)
グロリアの息子は、パリに行っていて長らく不在だったグロリアを
素直に母親とは呼べずにいるようです。
そんな風に、グロリアの家の中がまだまだ安定していない段階で
クレオがやってきたものだから、クレオに向く視線も好意的なもの
ばかりでは無いのです。(特に息子からの視線)
グロリアの娘は何とか無事に女の子を出産しました。
父親の存在は描かれず、娘自身も出産したくなさそうな素振りでした。
そんな中で生まれた赤ちゃん。
” 自分で世話しないと ”
クロリアは娘にそう言うものの、ついつい赤ちゃんの面倒を見る時間が
増えていきます。
夜泣き(昼間も泣いていますが…)をあやそうとグロリアが口ずさんだ
のは、今までクレオに対して歌ってくれた歌なのでした。
” それは自分のための歌なのに…。どうして?… ” とクレオ。
” 歌はみんなの物よ。誰か一人のものではないわ ” とグロリア。
クレオが、グロリアの中での№1では無くなった事実を突きつけられた
瞬間です。グロリアの中での自分が、ナンバーワンでもオンリーワンでも
無くなってしまいました。
何とかして、グロリアの気持ちを自分に向けたいクレオ。
グロリアが面倒を見ている赤子に対する感情に、黒いモノが混じり始め…
と、まあ。こんな感じの " 重い ” 展開が続きます。 …うーん。
◇
描かれたのは「純粋な感情」 なのかな と思います。
6才の少女の、隠す術を知らない剥き出しの感情が
” ほら ”
と言わんばかりに突きつけられてくる気がして、良くも悪くも鑑賞中
落ち着かない気分にさせられたような気がします。・_・;
※ヒザを擦りむいた子供の、キズの色合いや深さ・出血の程度などを
傷口の生々しさから目をそらさずに見続けた …そんな感覚。
観た直後は余り良いイメージを持てなかった作品なのですが
鑑賞後1週間経過して振り返ってみると、クレオやグロリア、そして
グロリアの息子など、それぞれの立場の人たちの心理状態を上手く
描写している作品かも と思えるようになりました。・_・;
「夏休み」の間に少女に起きた「人生最初の転換機」のお話として
大変良く出来たお話でした。
観て良かった。
※もう一度観たいかと訊かれたら、もう充分ですと答えそう…
◇あれこれ
■6才の幼児の感性
6才の頃の幼児の感性で、周囲を捉えている作品でした。
瑞々しい、というより生々しさが溢れ出ている感じで
途中から観るのがキツくなってきた気もする作品。
会話・笑い声・泣き声など、ほぼ剥き出しの描写が続くのもメン
タル的にしんどいものがありました。オブラート プリーズ。
悪魔だか悪い神様だかに、クレオが祈るシーン。
正直、ぞっとしました。 @-@ ;; キャー
呪いの儀式等が始まったらどうしよう…、観る作品を間違えたかも…
などと、不穏なラストにならないよう祈りながら鑑賞を続行。
結局は、そんなエンディングでは無くて良かった。ほっ
■アニメーションの効果
アニメーションが所々に挿入されていました。
どことなくボヤっとした映像が、クレオの心理状態を効果的に描写
していたように感じます。
■主役の子
全くのニューフェイスのようでした。
ぱっと見マッケンナ・グレイスに見えたり、笑福亭鶴瓶に見えたり…。
(女の子に鶴瓶師匠を引き合いに出すのは如何なものかという気も…)
とにかく表情が豊かで自然な演技にビックリしました。・_・;;
前歯が生えかわり中という、この時期ならではの愛嬌ある表情も印象
に残りました。(生え揃うとイメージ変わるかも・_・♡)
◇最後に
夏休みが終わり、クレオがパリへと戻る日が来る。
空港まで見送りにきたグロリア。クレオが飛行機に乗り込み
姿が見えなくなった所で、目に涙が溢れる。
自分に会いに来てくれたクレオ。
多分これが最後。来年はきっと、ここには来ない。
そう悟ったグロリアの決別の涙だった気がします。
今まで自分が一番だった人にとって
もはや自分が一番では無くなった。
それを受け入れるには時間も必要。 …ですよね、きっと。
パリの家に戻れば、新しい人が待っている。
クレオがどのように成長していくのか、気になります。
☆映画の感想は人さまざまかとは思いますが、このように感じた映画ファンもいるということで。