「嫌な映画だけど惹きつけられてしまう」ありふれた教室 ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
嫌な映画だけど惹きつけられてしまう
良かれと思ってしたことが仇となって帰って来るとは、何ともやりきれない思いにさせられるが、カーラのような正義が”ひっくり返る”ということは実際にままあるように思う。結局、その正義が本当に正しい物なのかどうかという判断は、当事者ではなく周囲の人々や社会が下すものなのだろう。
そういう意味では、今回の容疑者が頑なに罪を認めようとせず、その状態のまま学校側が一方的に断罪してしまったことは大いに問題があると思った。本来であれば冷静になって話し合いの場を設けるのが筋なのだが、余りにも感情的になってしまった結果、カーラと容疑者の間には深い溝が生まれてしまった。
また、この一件が学校中に知れ渡ってしまったのも問題だろう。生徒たちの間に不信感が生まれ、そこから保護者へ、更には教員同士の疑心暗鬼を生み、もはや盗難事件どころではなくなってしまった。
こういうのは初手をミスると、どんどんドツボにハマってしまうから恐ろしい。
正直、観てて終始嫌な気分にさせられる映画なので、万人には決してお勧めできない。しかし、この物語の根底には人間の愚かさや弱さが流れており、そこに惹きつけられてしまうのも事実だ。自分は終始画面から目が離せなかった。
監督、脚本は本作が長編4作目という作家である。長編以前には短編をたくさん撮っており、キャリア自体は結構長いようで、演出はかなり手練れていると感じた。
リアリズムを重視したストイックな語り口と軽快なテンポ、全編学校内で展開される物語が閉塞感や緊張感を上手く醸造していた。
また、中盤でカーラの心象を表すシュールなシーンが登場するが、ここは本作で唯一幻想的なタッチで表現されている。とは言っても、全体のリアリズムから変に浮くようなこともなく、このバランス感覚も絶妙だと思った。
更に、キーアイテムとしてルービックキューブを持ってきたのも面白いと思った。最初は突然出てくるので少し不自然に感じたのだが、要は”答えを出すことの難しさ”ということを暗喩しているのだろう。そのメッセージはカーラからオスカーに宿題のように託され、最後に思わぬ形で返答される。
印象に残ると言えば、エンドクレジットへの導入も見事で、思わず声が出てしまった。オスカーのカーラに対する、あるいはカーラを含めた大人たちに対する”宣戦布告”のように思えた。
もう一つ、本作で特筆すべきは音楽ではないかと思う。もはや、音楽と言うより効果音と言ってしまった方がシックリとくるのだが、これが全体に不穏なトーンを持ち込んでいることは間違いない。