「スリリングな展開に驚愕させられます」ありふれた教室 クニオさんの映画レビュー(感想・評価)
スリリングな展開に驚愕させられます
タイトル通りのありふれた教室での一部始終を、緊迫のサスペンスで描く一級の映画作品。先進国ドイツの公立小学校の一コマですが、日本でもこんなことは多分日常茶飯の出来事かと。松たか子の「告白」2010年、是枝裕和の「怪物」2023年、テレビドラマ・天海祐希の「女王の教室」2005年などでも問題提起されてますね。ほぼ正方形の窮屈なスクリーンサイズで展開される、全編キリキリと神経を逆なでさせられるような迫力の熟成が凄い。
完全に全編学校の中だけで描かれる、EUの北側諸国では当たり前のように原色の「青」があちこちに使われる学校内が舞台の総て。もちろん教室から職員室、廊下から体育館そして敷地内に限定されるが一応屋外も。しかし、本作はホラーではありません、超常現象もゾンビもサイコパスもモンスターも変態も一切登場しません。皆ごくフツーの一般人、そう私達と全く同じで全く同じ次元に居る。その仔細な人間関係がちょっとしたボタンの掛け違いで恐怖のどん底に陥られるわけです。
舞台となる小学校は「不寛容」をアピールしているわけで、仔細な事もとことん原因と対策を講ずる立派な方針のようで、だから、まあまあ、では済まない。それは長い試行錯誤を経て決めた学校なりの方針なんでしょうから。細やかな窃盗事件が校内で起きたようだ、犯人探しに生徒を誘導尋問にまで追い立てるのはその証左。こんな学校に新学期より転任してきた女性教師カーラが、自らの財布の中身を確認の上、ジャケットのポケットにしまいそのまま職員室に置いたままに、ご丁寧にパソコンで動画撮影まで施した上で。案の定、財布の中身が減っており映画は大きく動き出す。
被害者にも関わらずカーラは人間不信の地獄に叩き付けられる展開に、でも気丈にも彼女は冷静を装い事を生徒に寄り添って何とか収束しようと尽力するも、これでもかの罵詈雑言の渦中に。ああすればよかった、こんな事するんじゃなかった、全ては後の祭り。しかし、カーラの言動はすべて観客の納得行く範疇で、周囲の思わぬリアクションにカーラともども観客は苛まれる仕組み。理想主義者が管理社会のがんじがらめに翻弄させられる悲劇でもある。それはちょっとやり過ぎでは・・・と言ったところで不寛容はもう誰にも止められない。この辺りの追い込み描写が流石の力量を発揮し映画的興奮を生み出す。
日本だったら、そりゃないでしょと思うかも知れませんが、生徒も親も言わなきゃ損な意識は全く同じでしょう。生徒新聞も随分と強烈ですが、日本で言ったら中学生に該当する上級生の年齢でしょう。親の集まりだってあんなもんでは済まないでしょ日本でも。現役の先生方が鑑賞されたら、とてもじゃないけれど、冷静には観られないのではないでしょうか?
結局、学校事務の被疑者女性は確かに盗ったのか否か、映画は答えを出さずに、その息子の反骨精神を祭り上げて映画は終わる。真実はどちらでも、その経緯をこそ描きたかったわけで。物事の手順に正解があるはずもない、自らがベストと考えた行動が、どっちに混んんでも非難は避けられないのが今ってわけです。恐ろしい。原題は「先生の部屋」すなわち職員室なんですね。