喪うのレビュー・感想・評価
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余命わずかなお父さんがつなげた三姉妹の絆
大好きなエリザベス・オルセンが出演しているのが鑑賞動機です。
三姉妹による会話劇ですが、
みなさんのセリフ量に圧倒されるとともに、
不満が爆発する姉妹それぞれの思いに共感しました。
地に足がついているというか、すごくリアルなんですよね。
三姉妹ともに、どこにでもいそうなキャラクターなのに好感が持てました。
思いをぶつけ合いながらも、お互いを理解しようと努力する姉妹たちですが、
父の死の間際に、父の霊(?)が発する三姉妹それぞれへの思いを語るシーンが
実に刺さりました。
現実世界では亡くなる直前・直後なので、ファンタジーではあるし、
きっと三姉妹には見えていないし、聞こえてもいないのだけれど、
父の死がきっかけで三姉妹がお互い理解し合える仲になったのは間違いなさそうです。
実に良い作品。
年末のこの時期に観れたのは良かったです。
エリザベス・オルセンのワンダではないキャラクターによる魅力あふれる演技が素敵でした。
三姉妹であり続ける
父親が病に倒れ、危篤状態に。
疎遠だった三姉妹が父の住むアパートに集う。
エリザベス・オルセンやドラマなどで活躍する実力派が出ているものの、見るからに小規模、インディーズ作品。
キャストもほとんど三姉妹を演じた3人のみ。ホスピス職員や次女の恋人はちょこっとだけ。病床の父親すら映らない。
舞台もほとんどアパート一室。実際に町中のアパートで撮影したという。
設定も凝った捻りなく。ドラマチックな展開も起きない。
映画的な大きな見せ場はないが、映画ならではの醍醐味はある。
静かながらも緊張感走り、ワンシーン/ワン・シチュエーション、キャストの熱演…。こういう時、映画は化学反応を起こす。
何やら自分の家族親族や身内との死別時の事を色々思い出してしまった。
私の母も三姉妹。母は末の妹。
長女は真面目で几帳面。次女は商売人。末妹の母はどちらかと言うと甘やかされて育ち…。
親族が集まった時、仲良しこよしな三姉妹という感じではなく…。何と言うか、ちょっと他人行儀みたいな所があり…。
祖父が亡くなり、母が借金を背負った事で、絶縁。もうかれこれ20年以上は会っていない。
ま、遠方に住んでいるし、会う理由もないし、別に会いたいとも思わないけど。
劇中ほぼずっと聞こえる父親の心拍音。私も母方の祖父、父方の祖父母、両親を看取った時、病院に寝泊まりして、静かな病室にあの音だけが響いて…。
映画としては非常に単調なプロット。しかし、自分や家族親族に重ね合わせられる点が多い。
長女ケイティ。真面目で神経質。
次女レイチェル。マリファナやスポーツ賭博好き。性格も口調もガサツ。
三女クリスティーナ。柔和で泣き虫だが、ちょい裕福暮らしが滲み出る。
疎遠で性格もバラバラ。さらに、次女レイチェルは血の繋がりは無い。
そんな三姉妹が集ったら…? 静かな作品だが、怒涛のような何かが起こるのはすぐ分かる。
初っ端からケイティがレイチェルにくどくど、くどくど。
レイチェルは父と暮らしている。にも関わらず、延命処置拒否の書類にサインしていない、冷蔵庫に腐ったリンゴなど生活能力の無さにまた小言が多くなる。
レイチェルもレイチェルで聞いているような聞いていないような。外にマリファナ吸いに行ったり、スマホのスポーツ賭博が気になったり。それがまたケイティを苛々させる。
クリスティーナが場を穏やかにしようとするが、彼女も時々感情爆発したり、泣き出したり…。
些細な事、事ある毎に、何かが起きる。
普通の会話の中、食事中の会話の中でも、ちょっとした受け止め方の違い、すれ違いやズレで気まずくなる。
ケイティとクリスティーナは家庭持ち。自慢したいのか…? 各々事情も抱えている。いっぱいいっぱいをアピールしたいのか…?
父が亡くなったらこのアパートはどうする…? レイチェルが住んでいるのだからそのまま相続すればいい。ところが当のレイチェルは、アタシはアパートは要らない。それでまた言い合いに。
恋人は要るが姉妹の中で唯一独り身。性格も生活能力もダメダメなのは本人が一番分かっている。二人に対して劣等感も…。
プラスして、血の繋がりが無い。病床の父は実の父ではない。そんな気後れもあってか、姉妹が来てからは父の部屋へ入ろうとしない。
各々、何かを抱えている。悩んでいる。
もっとこう、しかと話せば分かり合えるのに、寄り添い合えるのに、それとは違う感情が出てしまう。
愛する肉親の命が消えようとしている。不安は隠し切れない。だから余計に過敏に。
各々の感情や本音が時に辛辣に、時に胸に染み入るように、露になっていく…。
基本は何かと言い合い。果ては口論、大口喧嘩までに。
一方ちょっとした事やヘンな事で共感したり。
姉妹は兄弟よりフシギな関係。
それを体現したキャリー・クーン、ナターシャ・リオン、エリザベス・オルセンのアンサンブルが素晴らしい。
マーベル作品に出演したりして一番人気や知名度あるのはオルセンだが、彼女もキャリアの始まりはインディーズ作品だった(『マーサ、あるいはマーシー・メイ』)。
甲乙付け難いが、とりわけリオンがインパクト残す。ガサツな性格が時折ユーモア醸し出し、心底で抱える劣等感が哀しさ滲ませる。
圧巻だったのは、父親への思いを吐露するシーン。実の父ではない。でもアタシにとって父親は、今病床のあの人!
オスカーノミネートがあるとすれば、リオンだろう。(小規模配信映画なので可能性は低いだろうが、是非!)
インディーズで幾つか作品を発表していたらしいが、いずれも日本未公開。
今回配信という形だが、アザゼル・ジェイコブス監督の作品を見たのは初めて。
その演出力は紛うことなき。
キャストから名演引き出し、ワン・シチュエーションで何の種も仕掛けも無いが、時にスリリングにエモーショナルに、見るものを引き込ませる。
種も仕掛けも…と言ったが、“最期”の意外な見せ方。こう来たか…!
躍進期待。
ラストも概ね想定は出来る。
チクチク言い合い、感情ぶつかり合っても…。
愛する肉親を喪ったからこそ、改めて想う。ひしひしと感じる。
そもそも関係修復絶望って訳ではないのだ。疎遠だっただけ。またこれを機に。
三姉妹であり続ける。
余韻も残る。
見逃さなくて良かった。
良作であった。
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