「いろんなパウエルが拝めるクライムラブコメ」ヒットマン ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
いろんなパウエルが拝めるクライムラブコメ
グレン・パウエルの容姿からくるイメージは、個人的にはジョック(アメリカのスクールカーストの頂点)っぽいセクシーマッチョ陽キャな感じなのだが、今回彼が演じたゲイリー・ジョンソンはほぼ真逆のキャラクター。髪をぺったりと七三に分けた地味な心理学の教授だ。
でもねえ、その口角やらがっちり体型から既にセクシーが漏れ出ちゃってるんですよ。逆にゲイリーでいる時の姿がコスプレに見える。もちろんそのギャップ受け狙いのキャラ作りだろうし、これはむしろ高評価。
冒頭で設定の説明はさくっと済ませて、前半はパウエルの七変化を楽しむパート。ポスタービジュアルから膨らんだ期待をちゃんと満たしてくれる。囮(おとり)捜査官としての仕事内容に深入りはせず、パウエルのビジュアルで遊ぶことにウエイトが置かれている。
中盤からは、彼の変装レパートリーの中でロンという一番パウエルらしいキャラが物語のメインになり、ロンとしてマディソンに出会ったことをきっかけに、ゲイリーとロンの境目がだんだん曖昧になってゆく。
オープニングで「 ”やや” 本当の話」という断りをちゃんと入れ、エンドロールでも念押ししてはいるのだが、アメリカ映画は時々実在の人間の扱いが大胆で困惑する。
ゲイリーのモデルになった実在の囮捜査官の実名をそのまま使い、飼い猫の名前まで実際のままなのに、そのゲイリーに物語の中とは言え犯罪を隠蔽させ、殺人までさせてしまうことにはちょっと驚いた。
夫殺しを依頼しに来た人妻を思いとどまらせたところまでは実話らしいのだが、実際のジョンソン氏はもちろん殺人の隠蔽も人殺しもしていない。
フィクションかつコメディなので真顔でダメ出しする気は毛頭ないが、正義に立つ側の仕事をしていた実在の人間をモデルにするなら、礼儀として物語の中でも正義を貫かせるだろうという先入観が、私の中にはあった。
だが、後半の展開を見て勘違いに気づいた。ああこの作品の方向性は実在のジョンソン氏の仕事ぶりの凄さや面白さを知らしめるものではなくクライムラブコメディで、人間の自我のあやふやさがテーマなんだな、と。
だけどね、物語中の真実としてはマディソンは保険金を釣り上げて夫を殺し、ゲイリーの前任のジャスパーにも毒を盛ったとんでもない女だよ? そんな女と、共犯になってまで付き合うってなんだか破滅的で、素直によかったねという気持ちになれない。コメディの中のことで真面目に心配するのも野暮なだけだとは我ながら思うが。
心理学の小ネタを布石にして、自分がなりきった架空の人物に本来の自分が影響を受けるという話の筋は興味深かったが、恋愛パートのオチにいまいち乗れなかった。
美男美女カップルだし、いろんなパウエル&セクシーパウエル見られたし、猫も出たからまあいいけどさ……
ところで、ああいうやり方の囮捜査って犯罪を誘発しているとは言えないのかと疑問に思って調べたら、アメリカには「罠の抗弁」なる判例法があるそうだ。
被告人が囮捜査以前に当該犯罪を実行する「傾向性」がなかったと陪審や裁判官によって認められれば、処罰されない場合もあるとのこと。つまり、囮捜査員に引っ掛からなければ犯罪行為に踏み出していなかっただろうという人は罪に問われないで済む仕組みが一応ある。
ただしこの「傾向性」という概念の具体的な定義、認定方法などには曖昧な面もあるとか。
マディソンは、囮捜査員から説諭されたのに自分で夫を殺したからなあ……こりゃ傾向性あるわ。やっぱあかんわ、ゲイリー目を覚ませ。
ニコさんはレビューのお手本を書かなきゃいけないから、プレッシャーはありませんか。私はぼんやりわからないまま雰囲気で観ちゃうので、浅いことしか書けずw。
グレンの認知度は上がる3作ではありました!
共感ありがとうございました!
まさにおっしゃりたいことわかります。あれだけ悪どい女と物事を論理的に考え、常識的なゲイリーがくっつくかな〜と。最後の協力もゲイリーというキャラクターが破綻してるなあと思ってました。完全なるフィクションならいいのですが、実在の人物ですからね😅