胸騒ぎ : 特集
一体何が起きるのか…イヤーな“胸騒ぎ”が止まらない、北欧ホラーの傑作5本
来週からゴールデンウィークです。新緑まぶしい爽やかな季節はもうすぐそこ。円安でヨーロッパなんて気軽に行けないけれど、もしかしたら北欧の初夏って、こんな感じかしら? と思いを馳せながら、連休のレジャーを計画する、明るくヘルシーな映画ファンの気分をどん底に突き落とす、新作北欧ホラー「胸騒ぎ」が5月10日から公開されます。
デンマークの鬼才クリスチャン・タフドルップ監督による本作は、ある善良な家族が過ごす悪夢のような休日を描くもの。「“デンマーク史上、最も不穏な映画を生み出す”というテーマを掲げて本作の製作に挑んだ」と公言するタフドルップ監督、もうその考えが恐ろしすぎます。そんな不穏はハリウッドまで伝わり、「ゲット・アウト」を手がける米ブラムハウス・プロダクションズが惚れ込み、ジェームズ・マカボイ主演でリメイク版の製作も決定しているとか。
そう、北欧デンマークといえば、イヤーな映画ジャンルヘビー級王者、ラース・フォン・トリアーを生んだ国。また特に2000年代から、近隣のスウェーデン、ノルウェー、フィンランド、アイスランドからも、美しい自然の風景とは裏腹に、観る者を暗澹たる気持ちにさせる恐ろしい映画がいくつも発表され、今や北欧ホラーというジャンル名が定着するほどです。
話題の「胸騒ぎ」は、シネマ映画.comで5月3日から期間限定先行配信がスタート、併せてシネマ映画.comで見られる傑作北欧ホラーをご紹介します。イヤーな“胸騒ぎ”が止まらない5作、この連休で一気に体験してみませんか?
▼悪は、善意の顔をしてやってくる……救いようのないラストでどん底気分の休日に「胸騒ぎ」(2021年/PG12/デンマーク・オランダ合作)クリスチャン・タフドルップ監督
<あらすじ>
休暇でイタリアへ旅行に出かけたデンマーク人の夫妻ビャアンとルイーセ、娘のアウネスは、そこで出会ったオランダ人の夫妻パトリックとカリン、息子のアベールと意気投合する。数週間後、パトリック夫妻から招待状を受け取ったビャアンは、妻子を連れて人里離れた彼らの家を訪問する。再会を喜び合ったのもつかの間、会話を交わすうちに些細な誤解や違和感が生じ、彼らの“おもてなし”に居心地の悪さと恐怖を感じはじめる……。
<“胸騒ぎ”な見どころ>
招待してくれたんだし、きっと良い人たちに違いない。異なる文化の国の人たちだから、ちょっと“おもてなし”表現の仕方が違うだけ。障害を抱える子どもを育てるのは、きっと大変な苦労があるのだろう……、他者に対してちょっとした違和感を抱いたとしても、こんな風に考えられる“普通の人”がアリ地獄のようなドツボにはまっていく描写が恐ろしすぎる。
「ハッチング 孵化」(2022年/PG12/フィンランド)ハンナ・ベルイホルム監督
<あらすじ>
北欧フィンランドで家族と暮らす12歳の少女ティンヤ。完璧で幸せな家族の動画を世界へ発信することに夢中な母親を喜ばすため、すべてを我慢し自分を抑えるようになった彼女は、体操の大会優勝を目指す日々を送っていた。ある夜、ティンヤは森で奇妙な卵を見つける。ティンヤが家族には内緒で、自分のベッドで温め続けた卵は、やがて大きくなり、遂には孵化。卵から生まれた「それ」は、幸福に見える家族の仮面を剥ぎ取っていく。
<“胸騒ぎ”な見どころ>
気味の悪い謎の卵も恐ろしいですが、美人で社交的なママ、人のよさそうな優しいパパ、新体操の才能ある美少女ティンヤ、甘えん坊のかわいい弟……インテリアも素敵な戸建てに住む誰もがうらやむような仲良し一家。実はそれぞれが家族のメンバーの秘密を知っているのに、それを胸に抱えながら理想的な家族を演じなければいけないという、静かな狂気に胸がざわつきます。
「イノセンツ」(2021年/PG12/ノルウェー・デンマーク・フィンランド・スウェーデン合作)エスキル・フォクト監督
<あらすじ>
ノルウェー郊外の住宅団地。夏休みに友人同士になった4人の子どもたちが、親たちの目の届かないところで隠れた力に目覚める。子どもたちは近所の庭や遊び場で新しい力を試すが、やがてその無邪気な遊びが影を落とし、奇妙なことが起こりはじめる。
<“胸騒ぎ”な見どころ>
団地を舞台に、子どもたちがサイキックバトルを繰り広げる大友克洋の漫画「童夢」からインスピレーションを得たという本作、自閉症の姉を持つ少女、生活のためになかなか子どもと向き合う時間が取れない片親との生活など、4人の子どもの家庭内での満たされなさのようなものが、思いもよらぬ悪意につながっていくことに気づくと、大人は心がえぐられます。
「犬人間」(2022年/ノルウェー)ビルヤル・ボー監督
<あらすじ>
女子大生のシグリッドはデートアプリでハンサムな大富豪クリスチャンと出会い、ふたりはすぐにひかれ合う。恋人としては完璧なクリスチャンだったが、彼にはある大きな問題があった。実はクリスチャンは、犬の着ぐるみを着て彼の“飼い犬”として振る舞う男性フランクと一緒に暮らしていた。そして、クリスチャンと交際を始めたシグリッドは、彼の別荘に招待される。
<“胸騒ぎ”な見どころ>
犬として振る舞うことが、自分らしく生きること。という人もいるんだな――と深く考えずに、昨今叫ばれる多様性のひとつとして認めてしまったがゆえに主人公が陥る恐怖、スマホなしでは生きられない現代人、出会わなくても良い人と出会えてしまうマッチングアプリの恐ろしい側面と、この時代ならではのトピックにぞわぞわ。
「ぼくのエリ 200歳の少女」(2008年/PG12/スウェーデン)トーマス・アルフレッドソン監督
<あらすじ>
永遠に年をとらないバンパイアの少女と、孤独な少年の交流を描いたヨン・アイビデ・リンドクビストのベストセラー小説「モールス」の映画化。内気で友達のいない12歳のオスカーは、隣の家に引っ越してきた不気味な少女エリに恋をする。しかしエリの正体は、人間の血を吸いながら町から町へと移り住み、200年間も生きながらえてきたバンパイアだった。
<“胸騒ぎ”な見どころ>
白銀の世界で繰り広げられる、おどろおどろしい血みどろ描写や残虐シーンは恐ろしいが、この作品は家族や社会から疎外された孤独なふたりが惹かれあう様を繊細かつ美しく描いているのがポイント。本当に恐ろしいのは、普通の暮らしをしている人々を脅かす存在か、それとも異質なものを排除しようとする人間の心か、そんな問いも投げかける傑作です。
「胸騒ぎ」(5月10日より新宿シネマカリテほか全国公開)は、5月3日(金)~5月6日(月・祝)、シネマ映画.comで<先着100名限定>で劇場公開前プレミアム配信。5月2日(木)までお得な前売り券を販売中です。