「美しく緊張感溢れる恐怖。」胸騒ぎ たけはちさんの映画レビュー(感想・評価)
美しく緊張感溢れる恐怖。
クリスチャン・タフドルップという監督だそうだ。美しい映画だった。撮影はエリク・モルバリ・ハンセン。
下馬評による「胸糞悪い」映画という惹句から、例えば手持ちキャメラを多用し、ラスト20分で血なまぐさい殺戮でも起こるのではないかと恐れながら観ていたが、非常に優れた観光写真のような固定キャメラによるショットや、時折キューブリックを匂わす移動する車を後方から広めのアングルで追うショットなど、ここ最近観たホラージャンルの中でも、異質な美しさに満ちた作品だった。
しかも、キングが否定したようなキューブリックの映画「シャイニング」におけるホラー映画としての過ちを犯すことなく、不気味な旅行者の佇まいをロングで映しては、後に悲惨な目に遭う少女アウネス(マリーヴァ・フォシュベリ)を被写界深度浅めでバックから映すショットの不穏さや、楽しげな旅先での晩餐の様子も、ヨーロッパ的な日常を描く映画の定石を踏むがゆえに恐ろしさはいや増す。
スーネ・“コーター”・コルスターによる劇伴が素晴らしく、オープニングから不自然に被さっては日常を瓦解させる不穏な演出は、比較されるハネケとも異なり、新しい恐怖を感じさせた。物語自体はホラーと言うよりサスペンスに近く ジャンプスケアはほぼ無い。救いのないラストは黒沢清によるVシネを思い出す。
マリーヴァ・フォシュベリは美しい少女だったし、口の聞けないアーベル役のマリウス・ダムスレフの不穏な存在感は物語を牽引していた。悲惨な目に遭う夫婦の旦那ビャアン(モルテン・ブリアン)は若き日のイーストウッドのような目をしていたし、奥さん役のスィセル・スィーム・コクや猟奇殺人犯夫婦の2人や謎のベビーシッターの不気味さも冴え渡る演出でした。付け加えるならば、底流にキリスト教的背景による悪魔感が流れる意味でも正統な恐怖映画の系譜です。
最近のホラーの中でも群を抜いた良作でした。