決断するとき

劇場公開日:2026年3月20日

解説・あらすじ

「オッペンハイマー」のキリアン・マーフィが主演を務め、アイルランドの小説家クレア・キーガンによるベストセラー小説「ほんのささやかなこと」を映画化。アイルランドに実在した「マグダレン洗濯所」の人権問題を背景に、社会が長く黙認してきた現実を知ってしまった者の葛藤と決断を描く。

1985年、アイルランドの小さな町。家族と慎ましく暮らす石炭商人のビル・ファーロングは、クリスマス前のある日、石炭を届けに訪れた地元の修道院で、そこに身を置く少女から「ここから出してほしい」と懇願される。若い女性たちが行き場もなく苦しんでいる現実を突きつけられた彼は、見て見ぬふりをすることが賢明だと理解しながらも良心の責めに悩み、ある決断を下す。

「奇跡の海」のエミリー・ワトソンが修道院の院長シスター・メアリーを演じ、2024年・第74回ベルリン国際映画祭で最優秀助演俳優賞(銀熊賞)を受賞。「マグダレンの祈り」のアイリーン・ウォルシュがビルの妻アイリーンを演じた。原作小説にほれ込んだマーフィが自ら映画化を希望し、初めて製作を担当。マーフィ主演のテレビドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」のティム・ミーランツが監督を務め、製作にマット・デイモン、製作総指揮にベン・アフレックが名を連ねた。

2024年製作/96分/G/アイルランド・ベルギー合作
原題または英題:Small Things Like These
配給:アンプラグド
劇場公開日:2026年3月20日

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第74回 ベルリン国際映画祭(2024年)

受賞

最優秀助演俳優賞(銀熊賞) エミリー・ワトソン

出品

コンペティション部門 出品作品 ティム・ミーランツ
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映画レビュー

3.5 手は語る

2026年3月22日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 画面いっぱいに映し出され、ごしごしと洗われる骨太の大きな手。汚れをいとわず働く手であり、5人の娘と妻を守る手でもある。石炭の大袋を持ち上げ、弱った少年のためにポケットの小銭をさぐり、娘たちに焼きたてのパンを配る。随所に主人公・ベンの手が登場し、彼の実直さを物語っていた。
 皆が沸き立つクリスマスの季節だというのに、彼の心はなぜか晴れない。子どもの頃の思い出が、彼の心に影を差すのだ。そんなある日、たまたま目にした光景へのわだかまりが、反芻される記憶の霞を、少しずつ取り払っていく。
「麦の穂を揺らす風」のキリアン・マーフィが、故ピーター・ミュランが映画化した「マグダレンの祈り」に続き、アイルランドの暗部に切り込んだ本作。(ベンの妻・アイリーン演じるアイリーン・ウォルシュは、奇しくも両作に出演している。)行きたくないと泣き叫ぶ少女と周りの冷静さのギャップから、「そこ」が恐ろしい場所だということは暗に伝わってくる。けれども、その実態は、最後まで明かされることはない。ベンの記憶もまた、断片をつなぐ細い糸が見出されるまでだ。数百年に渡り強制収容と労働の場であったマグダレン洗濯所に関する衝撃的な説明はばっさりと削がれ、傍観者であった彼の葛藤と、その先の一歩がじっくりと描かれている。
 彼が訪ねる「そこ」のくだりは、まるでホラーだ。じめじめとした暗闇が視界を覆い、泣き声と呻き声だけが耳に刺さる。切り盛りするシスターはどこまでも冷静で、目前の奇異な状況に、疑問を投げかける隙を与えない。それどころか、慇懃に施しと脅しをちらつかせ、彼の思考を止め、選択を奪おうとする。
 実際、当時の人々は、噂や憶測のみで「そこ」を知ったつもりになっており、敢えて知ろうとはしなかっただろう。安易な好奇心から「そこ」に引き摺り込まれ、周りから無きものとみなされることを、何よりもおそれていたはずだ。当然、妻も隣人も、自身と家族を守る大切さを彼に説き、踏み出すことの代償を懸念する。それでも彼は、自分と彼女たちを隔てる薄い壁を、気に掛けずにはいられない。知らずにいた頃から、実は自分は薄氷の上にいた。妻や娘たちも、また同じ。それに気づいた彼は、最善の策を考えあぐねる。そんな彼の背中を最後に押したのは、かつての、少年だった自分かもしれない。
 煌めく街を、彼は孤独に行進する。驚き、さげすみ、無関心…街の人々の様々な表情をよそに、一歩一歩、彼は歩く。ためらいながらも前進を選んだ彼ベンが、最後に少女へ差し伸べる手。それは、これから長く続くであろう仄暗い道を照らすかのように、白く光って見えた。大きな偉業以上に、市井の人の小さな一歩の積み重ねが、大きなうねりとなり、歴史を動かしたのだと痛感した。

追記
映画鑑賞後、改めてクレア・キーガンによる原作「ほんのささやかなこと」を読んだ。訳者あとがきで、同じ作者の作品の映画化が「コット、はじまりの夏」だと知り、驚きつつも納得した。めくるめく映画しりとり!

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cma

4.0 製作主演を担ったマーフィーの思いが際立つ一作

2026年3月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

舞台は1985年、アイルランドの小さな町。クリスマスシーズンなのに倒産続きの不況の煽りは深刻にのしかかり、暖をとる術や日々の食糧にすら困る家庭があるほど。それに映画版では詳述されないが、北アイルランドをめぐる政治的な影響も影を落とす。そんな中、主人公は修道院を巡る一つの事実に気づき、もはや知らなかった頃の自分には戻れなくなっていく。決して不正告発系や英雄譚とした映画とは違い、無口な主人公ビルの心象を静かに繊細に描き出す一作。説明的な描写が削がれているので理解しにくい部分がある。”マグダレン洗濯所”に関する知識の度合いによっても受け止め方は変わるはず。だが製作・主演のキリアン・マーフィーが「映画の役目はむしろ問いかけること」と語るように、観る側にポツポツと火が灯るかのごとく気づきが満ちていく感覚こそ本作の要。彼の演技に併せて主人公の心の彷徨いを追体験できる、ささやかなれど深くて力強い作品だ。

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共感した! 6件)
牛津厚信

3.5 黒歴史を見つめる誠実さと、現代に問う意義

2026年3月24日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

原作者クレア・キーガンの小説が最初に映画化されたのは、2024年に日本公開された「コット、はじまりの夏」。映画化第2作となるこの「決断するとき」との共通点を挙げるなら、抑えた感情のわずかな動きを繊細に描写していること、淡々としたストーリー運びでありながら深い感動を呼ぶことあたりだろうか。

主演のキリアン・マーフィは、クリストファー・ノーラン監督の大作映画の常連でもある国際的なスターだが、初のプロデュース作品に出身国アイルランドの黒歴史ともいうべき題材を選ぶあたり、誠実な人柄をうかがわせる。マグダレン洗濯所をめぐる史実、それを扱う物語、主人公ビルのキャラクターといったすべてに真摯に向き合う姿勢が、迷いや苦悩をわずかな表情の変化や身体の動きで表現する的確なパフォーマンスに結実したのだろう。

語り口は若干わかりづらいかもしれない。石炭商人ビルの現在と子供時代を行き来して話が進み、未婚の母親がメイドとして働きながら彼を育てたことが、現在のビルの葛藤や決断に関わってくるのだが、そのあたりも説明不足の感じがする。

ローマカトリック教会への信仰心が厚いこの地域で中絶は罪であり、それゆえ婚前交渉であれレイプ被害であれ未婚女性が妊娠したら出産するしかなく、そうした若い女性が家族から厄介者扱いされて修道院に預けられ、劣悪な環境で無報酬労働させられていた。そうしたことも、歴史的背景や事前情報などである程度知識があればわかるが、ビルが目撃する形で描かれる修道院内の様子もごくわずかなシーンにとどまるため、具体的にどんな過酷な環境だったのかは推測するしかなく、物足りない気もする。

それでも、同調圧力の中で長いものに巻かれるのか、それとも自分が正しいと思うことを決断し実行に移せるのかという問いは、古くからあるが現代も変わらず残り続けている難問だ。「決断するとき」のような映画に触れ、自分ならどうするだろう、何ができるだろうと自問する意義はきっとある。

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高森郁哉

未評価 まずは、マグダレン修道院の歴史を知ってから観た方が

2026年6月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 18世紀から20世紀後半まで、アイルランドの貧困女性や娼婦などの更生・保護の施設としてスタートしたものの、やがて未婚出産した女性・婚外交渉の女性・性的虐待被害者までもを監禁し使役し、その利益を吸い上げていたマグダレン修道院を舞台とした物語です。こうした事件があった事は、本作鑑賞後に調べて初めて知りました。

 この修道院の様な権威ある組織、或いは権力のある人が行う許せぬ不正義を目撃したとき、果たしてあなたはどうするかを問い掛けて来ます。

 しかし、そのテーマとなる事件はアイルランド・イギリスではよく知られているのかも知れませんが僕は全く知らなかったので、どこか隔靴掻痒のもどかしさを感じながら観ていました。

 カソリック教会での数多の児童への性的虐待問題を始め、こんなことが神の名の下で行われ隠蔽されていたのですから何をかいわんやです。

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La Strada

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