季節はこのままのレビュー・感想・評価
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春は、巣ごもり。おんらいんで買い入れたる鍋など焦がしたるは、いとわろし。
世界的な新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われた2020年の春、フランスの片田舎にそれぞれのパートナーとともに閉じ籠った映画監督の兄(主人公兼語り手)と音楽コメンテーターの弟。この作品は彼ら、彼女らのロックダウン下の日常を描いた物語です。
私、実は一週間ほど前にパンデミックのエピセンターである中国武漢付近を舞台にしたロウ•イエ監督の『未完成の映画』を鑑賞し、その斬新な手法や画面上の緊迫感にガツンと食らわされて、パンデミックを扱った映画でこれ以上のものはなかなか出てこないのでは、と思っていたところでした。ところが、時期を未知のウイルスに対する啓蒙活動が多少なりとも進んだ2ヶ月ほど後に設定し、場所を経度にして110度あまり、距離にして約7,500キロあまり西のフランスの片田舎に移動させて、視点を変えてみると、こんなにも軽妙洒脱なコメディができるということで、映画の世界の奥の深さに感じ入った次第です。
とにもかくにも、この作品ではアサイヤス監督のセンスが冴え渡っています。笑えるところの笑い方が「にやり」とか「くすっ」といった感じになっていて、大人のための軽妙洒脱なコメディに仕上がっています(エスプリが効いてるとでも言うのかな)。映画監督の主人公ポール(ひょっとしたらアサイヤス監督が自身を戯画化したのかも)は未知のウイルスに対して非常に神経質になっていますが、このロックダウンの時期の意味に関しては「人生の幕間」のような言い方をしてけっこうポジティブに捉えています(普通の日常生活に戻ることを怖がったりもしてます)。で、このポールさん、プチブル的というか、スノッブというか、衒学趣味が強いというか、要するに「ああ、あれね」といった感じの面倒くさい人で、推薦図書に清少納言の「枕草子」やら紫式部の「源氏物語」やらを挙げるようなタイプの人です。源氏のほうは読んでなさそうでしたが、枕草子のほうは少なからずもその本質を捉えていたような気もしたので、このレビューのタイトルで少し遊ばさせていただきました。鍋の顛末は本篇でお確かめください(私、鍋が出てくるたびににやりとしてました)。
まあ、そんなこんなで人間たちはどことなく滑稽なんですが、物語の背景たる自然はパンデミックどこ吹く風で本当に美しかったです。
こういうのって、本当は人生これからっていう若い方々に後学のために見てほしいという気もするのですが、やはり、刺さるのはそれなりに人生経験を積んだ年配の方々なんでしょうかね。特にお薦めしたいのは男兄弟のいる中年以降の男性に対してです。大人になった後の兄弟関係というのはかなり面倒だと思いますが、その面倒くささや距離感の描き方が秀逸でした。
コロナ過と閉じこもり
2024年。オリヴィエ・アサイヤス監督。フランス、コロナ過のロックダウンで久しぶりに田舎で一緒に暮らすことになった中年の兄弟。幼いころ共に過ごした実家には隣の家の持ち物である広大な庭がを使い放題で、自然がいっぱい。閉じ込められた世界で、お互いの恋人共に過ごす、奇妙なひととき。
映画監督で神経質な兄と、奔放で音楽評論家の弟。お互いに結婚と離婚を経験し、似たような趣味をもっていて、話が合う一方で、コロナ過のストレスもあってぶつかり合うこともしばしば。それでも、仕事と生活は続いていき、自然の木々は成長していく。コロナという大きな出来事があろうがなかろうが。
コロナ過でぽっかりと空いた時間に自然の豊かさに惹きつけられたこと。その「モラトリアム」がゆっくりと溶けていくときに、今度は日常の再開に怖気づくこと。当時の「あるある」が満載。
かっこいい
※星取りは苦手。何か書きたくなった時点で満点!
弟が兄にまたAmazonか!て怒るのは
アサイヤスの悶々とした不満かな…
それを仕方ないじゃないか、
という兄もまたアサイヤスなのかもしれない。
くすくす笑うところが沢山あって、
美しい景色も沢山あって、
想い合う恋人同士も出てきて、
心地よかったー
フランスのコロナ禍も覗けて
近い感じと全然違う感じあって
興味深かった
アサイヤス監督のモテ男な雰囲気が
にじみ出てる映画で、かっこいい。
二十代の女性にオススメ笑
子供の頃の思い出を
モノローグで聞かせてくれたり、
元カノの美しいお胸の美しいお写真を見せてくださったり、
フランスの裕福な家の様子がドキュメンタリー的に見られるのもよかった。
ひと時ウットリ。
ユートピアじゃない
コロナでロックダウンになり、郊外にある実家で暮らし始めた中年の兄弟と、それぞれのパートナーの話。
仕事柄それぞれが得意な映画や音楽に関すること、そして亡き父親の影響か文学に関する話題でコミュニケーションをとる4人の様子をみせて行く。
日本はロックダウンにならず、娯楽の部分で少々制限があったぐらいだし、本当の意味ではロックダウンの厄介さは理解出来ていないかも知れないけれど、確かにこの兄貴の頭でっかち感はちょっと面倒くさいw
まあ日本でも過剰に反応する人とか頭でっかちな人は多々いたけれどね。
確かに空気感は堅くないけれど、これがコメディ?という感じだし、光だ愛だっていうほどの仰々しいものも自分には感じられなくて自分には刺さらず。
大きな波もないから盛り上がらず、ふ〜ん…という感じった。
緊急事態宣言時代の巣篭りを思い出す
2020年4月、コロナ禍に陥ったフランスの片田舎を描いたお話でした。先日観た「未完成の映画」も、同じくコロナ禍初期を描いた作品でしたが、新型コロナの震源地と言われた中国・武漢の近くを舞台にした「未完成の映画」と比べると、遠くヨーロッパの片田舎を舞台にした話とでは、内容も印象も全く異なる作品に仕上がっていました。
内容的には、成人してから別々に暮らしていた兄・ポール(バンサン・マケーニュ)と弟・エティエンヌ(ミーシャ・レスコ)兄弟が、それぞれの恋人モルガン(ナイン・ドゥルソ)とキャロル(ノラ・ハムザウィ)を伴って、コロナによるロックダウンの期間を田舎にある実家で過ごす時間を描いていました。
コロナ恐怖症に陥り、必要以上に神経質なポールと、そこまで尖っていないキャロルは、時に喧嘩をしながらも、恋人との時間を楽しんでいる様子。この辺の気持ちは、緊急事態宣言が発出され、世間の動きがほぼ止まった日本においても味わったことで、コロナは怖いけど仕事や学校が休みになったり、自宅勤務やリモート授業に切り替わって自宅に巣篭った時期のことを懐かしく思い出しました。登場人物たちも、通常の生活に戻ることを望みながらも、この”季節”が”このまま”続いて欲しいと思う気持ちあるというアンビバレントが、非常に上手く描かれていて、共感すること仕切りでした。
内容とは関係のない話ですが、枕草子や源氏物語が会話に出てきたり、石庭の飛び石の話がナレーションに出てきたり、はたまた主人公たちがプリウスやカローラに乗っていたりと、日本に話題や物が端々に登場したので、この点で何となく親しみを感じた作品でもありました。特に枕草子とか源氏物語というのが、フランスのスノビッシュな会話の道具として使われているらしいことが感じられ、微笑ましくもありました。まあ内容には関係ないんですが。
いずれにしても、人類存亡の危機と思われたコロナ禍を振り返る作品として、「未完成の映画」とは全く対照的なお話でしたが、いずれも非常に興味深い作品に巡り合うことが出来、満足出来ました。
そんな訳で、本作の評価は★4.0とします。
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