「美しい自然、心があまり美しくない兄弟」季節はこのまま KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
美しい自然、心があまり美しくない兄弟
フランスの田舎に、両親が残した大きい一軒家。そこにコロナ禍を避けて暮らすことになった中年の兄弟の話。
主人公である兄は、毎日のようにAmazonの通販で靴やら鍋やらを買いこんでいる。主人公はコロナ恐怖に陥っているし、確かに外出せずに通販に頼る日々があったことが思い出される。ところが弟はAmazonが労働者を酷使する企業だと指摘するなど、何かと兄につっかかる。
このようにこの映画はコロナ敏感派と懐疑派の対立など、あの時期のストレスをありありと映し出す。もともと映画監督の兄と音楽評論家の弟だし、こだわりが強く一緒に暮らすべき相手ではない。
身近な人の間で起こる価値観のすれ違いは興味深く、大きな事件が起こらない会話劇も好きなのだが…この映画はなぜか合わなかった。最初から弟が怒りっぱなしなのは微笑ましいというより単純に疑問。
曲のイントロクイズを出し合うなど楽しそうな場面も、マウントを取るためなのか、知らない曲ばかりで眠くなった。
少し面白くなったのは、いちごジャムを作るのに失敗して鍋を何度も掃除し、そのたびに弟が怒る場面。離婚して離れて暮らす娘とタブレットで通話する場面。「ママに隠れてネットフリックスを見ているだろう、パパに通知が来るから分かるんだよ」などと説教しながらも、可愛い娘に父はデレデレ。
全体に自然の風景は美しく、兄弟それぞれの恋人や別れた家族(妻と娘)は魅力的な人ばかりなのに、なぜ兄弟(特に弟)は心が狭いのか。そのコントラストが際立つ映画だった。
余談だが、ちょうど中国の「未完成の映画」と同じ日に鑑賞。コロナが回顧の対象になってきたということだろう。[「季節はこのまま」は知識人特有のこっけいさを取り入れ、中途半端な美談に陥らずに描いていた点は好ましかった。
ネットで仕入れたちょっといい知識が、他の誰かにとってはデマだったり大きなお世話だったり。そういう些細な対立の火種はコロナ後の日常にも潜んでいると思う。