「なんとも言えない温かさを感じる良質なドキュメンタリー」ちゃわんやのはなし 四百年の旅人 sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
なんとも言えない温かさを感じる良質なドキュメンタリー
薩摩焼や萩焼などが、秀吉の朝鮮出兵をきっかけに、日本に連れて来られた朝鮮半島の陶工の方々によって成立してきたことを、この映画を観るまで知らなかった。
産業革命の担い手として、各藩で重宝された人々は、朝鮮文化を大切にした暮らしを保証され、手厚く庇護されてきたとのこと。その人々が、それぞれの地で400年という時間をかけて、作り上げて来たのは、日本の土を用い日本の風土に合わせた、まさに「日本文化」そのものの陶器だった。にもかかわらず、そうした人々を、朝鮮人と呼んで蔑む輩のなんと愚かなことか。日本国籍を持ち、日本人そのもののアイデンティティを持っていた若き15代沈壽官の悩みと問いが刺さると共に、無知と不勉強の罪深さを考えさせられた。
だが、この映画のテーマはそこのみではなく、「親から子へ、または師匠から弟子への技術と精神の伝承」「伝統と、時代に合わせた革新性のバランス」「設備改修と遺産としての保護の葛藤」等々、日本と韓国それぞれの陶芸家たちの姿と、それぞれの時代との関わりを描くことを通して、幅広く観客に考えさせるつくりになっている。
そして何より、観ているうちに、本作のメインの出演者と言ってよい15代沈壽官の人柄にだんだん惹かれていき、観終わる頃には、すっかり知り合いのような気楽さで、彼の言葉に頷いたり笑ったりしてしまった。
本職には程遠いが、自分も作陶や焼成の経験があったため、それぞれの場面が興味深く、エンドロールが流れ始めたら「もう終わりか」と思ったほど、あっという間の時間だった。
特に「1200度までは技術で温度をあげられるが、そこから1280度までは経験」という言葉からは、例え灯油窯や電気窯であっても、個々の窯ごとに個性があって同じようには焼けないことから、登り窯なら尚更だろうなと思ったし、「それって、人付き合いも同じだよなぁ」とも思った。
この映画は、観終えると何とも言えない温かさを感じるのだが、それは、全編を通して、出てくる人々が互いに影響しあって、今につながっていることを丁寧に描き出しているからだと思う。
全国での公開劇場が20館に満たず、すでに上映終了となった劇場も多いが、12代沈壽官の作品を映画館の大画面で鑑賞するだけでも価値があるので、お近くで公開の際はぜひ。