劇場公開日 2025年3月21日

「目を凝らし耳を澄ませるもよし、ただただ身を委ねるもよし」BAUS 映画から船出した映画館 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5目を凝らし耳を澄ませるもよし、ただただ身を委ねるもよし

2025年4月6日
iPhoneアプリから投稿

 冒頭、煙草をふかす館長の背中越しに広がる風景に、「PARKS」を思い出した。どちらも、井の頭公園が繰り返し登場する。本作は、映画館と映画館を営んだ人々を描いているようで、実は、映画館のある「街」の映画なのだと感じた。
「まあ、いいや」が口癖の鷹揚な社長に拾われ、映画という窓を持つ大きな家=映画館に招き入れられた本田兄弟。「ここでは何をしてもいい、やりたいことをやっていい」と受け入れられ、映画(館)に魅せられていく。彼らとともに、私たちも、ゆったりと物語に身を委ねたくなる。けれども、本作のつくりは少々愛想がない。画面は薄暗く、セリフもところどころ聴き取りにくい。目を凝らし、耳を澄ませれば、その分きっと発見があるのだろう。一方で、そんなに欲張らず、その時ならではの引っかかりを味わうのも悪くない、とも感じた。映画という窓から、その日の自分だからこそ眺めることのできる風景が、きっとあるのだから。
 活弁全盛からトーキーへ、戦争を挟んで80年代、2000年代と、時は流れる。とはいえ、描かれる情景は、その時々の「今」だ。映画館に集まる人々、映画を届けるスタッフたちの躍動(画面をタテ三分割にした、上映直前までのシーンが秀逸!)や温かさは、留め置くのが難しい。だからこそ、かけがえがない。幸福な光に溢れているからこそ、不穏な影の存在を無視できない。少しずつ、街の趣きは変化し、人々も歳を重ねていく。
 そして、閉館。よき時代の象徴が時代の波に押されて失われる…といったセンチメンタルな甘い郷愁を、鋭いギターが力強く切り裂く。圧巻の幕切れだった。
 染谷将太、峯田和伸、夏帆ら本田一家はもちろん、軸となる鈴木慶一、写真と声が大半にもかかわらず深い印象を残す橋本愛をはじめ、どの役者さんも、映画と映画館への愛情がにじませ、素敵な表情を見せている。個人的には、初代社長の吉岡睦男、映写の黒田大輔が特に印象的だった(いずれも敬称略)。折々に、繰り返し観たい作品だ。

cma