「映画館それそのものが記憶であり物語である」BAUS 映画から船出した映画館 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
映画館それそのものが記憶であり物語である
どの映画館にも歴史がある。それを築いた人々の情熱と、そこに集った多くの観客の熱気と息遣いがある。本作は吉祥寺という街の文化を彩ったバウスシアターが一体どこからやってきて、いかに大海で帆を広げ、そして終焉を迎えたのかを劇映画、しかも一族のクロニクルという形で綴った極めて興味深い叙事詩である。とはいえ、この劇場にまつわる一部始終を縦型に描くのではなく、支配人の胸中にプカリと浮かんでは消える記憶の泡沫をじっくり味わうかのような、幻想的で、アヴァンギャルドで、パンキッシュな語り口を貫いているのが特徴的だ。時に、語るべき要素を割愛したかのような構成に不完全燃焼感を抱く人もいるかもしれないが、ある意味でこれは依然として「思い出したい記憶と、そうではない記憶」が渦巻く劇場主の胸中を誠実に投影したものとも言いうる。そのストーリーの重力に逆らって手にした、決してありきたりではない疾走感と躍動感に心掴まれた。
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