劇場公開日 2024年3月15日

「物語のけん引力は今年屈指。しかし介護や認知症などの描写については一考を要する一作」ビニールハウス yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0物語のけん引力は今年屈指。しかし介護や認知症などの描写については一考を要する一作

2024年4月21日
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鑑賞方法:映画館

セリーヌ・ソン監督は長編映画初監督作品である『パスト ライブス』でいきなりアカデミー賞作品賞、脚本賞の有力候補に名を連ね、イ・ソルヒ監督も本作が初の監督、脚本作品です。今年は才気煥発な若手監督のための年なのかも。

ソルヒ監督の語り口は鋭利かつ周到で、冒頭からあっという間にムンジョン(キム・ソヒョン)と彼女の周辺で起きる状況に目を奪われ、そのまま結末になだれ込みます。体感で一時間ほどに感じたあたりで、もう一波乱起きるのかな、と思ったらそのままエンドクレジット。幕切れの切れ味も鋭く、ちょっと唖然としたほどでした。ソルヒ監督は間違いなく、卓越したストーリーテラーですね。

本作では、『パラサイト』(2019)にも通じる、社会格差と貧困、介護の問題など、現代の韓国における深刻な社会問題を取り入れています。その一方、見方によっては、こうした直視すべき現実を、物語を盛り上げるための要素として「道具化」しているようにも見えます。あまりにも語り方が巧みであるが故に、技巧的な側面が際立ってしまっているとも言えます。監督のインタビューでの発言を読むと、監督にそのような意図はないことは明らかなのですが、このあたり、作品が省略した要素を行間を読み取っていきたいところ。

『パラサイト』は、たとえそれが幻想であったとしても一縷の希望をつなぐような結末でしたが、本作に関しては正直言って救いを見出すことが非常に困難です…。すごい作品を観た、という感触は得ても、そこに爽快感や楽しさは伴わないかもしれない、という点については鑑賞前に留意しておいた方がいいかも。

yui