「不条理ニコラス」ドリーム・シナリオ Tiny-Escobarさんの映画レビュー(感想・評価)
不条理ニコラス
集団ヒステリーのように右往左往する現代特有の世論を、ニコラスケイジが猫背や卵型のハゲ頭を駆使して、これでもかと演じ切ります。
カットのつなぎ目が小気味良く、台詞回しや映像も洗練されています。
軽妙なコメディのようで、恐ろしい映画でもありました。
普段、自己防衛的に自分ならどうするかということを妄想しながら映画を観ることが多いのですが、効き目なしでした。
この映画のような筋書で元カノに「夢のことを記事にしていい?」と言われたら、普通に「いいよ」と言うと思います。
私が一番怖かったのは、他人の夢に出てきたのがポールだという証明は、誰にもできないということです。客観性が全く存在せず、証明できないことがベースになって、それが現実を破壊していく。謂れのないことでどんどん責められ、最終的には「悪人」にされるまで燃やされる。この、キャンセルカルチャーをやる側の滑稽さ、やられる側の怖さと逃げ場のなさが、これでもかと表現されています。
どういうオチがつくのかと思っていたら、まさかの集合意識デバイス爆誕で、シマウマの話をしていた進化学専門のポールが、自分が群れからはぐれて食い荒らされた挙句、人間の『進歩』にいっちょかみするという急展開でしたが、そこで終わりでなくて本当に良かったと思います。
ラストを締めくくるのは、冒頭ならいつでも実現できたはずの、妻にとっての最良の思い出。気づいたら、夢の中でしか会えなくなっている。ポールが選ぶのは、自分の見たい夢ではなく、あくまで相手の好きな夢。この切なさと優しさが、それまで情けなくしか見えなかったニコケイのビジュアルにマッチしていて、泣けてきます。
結構辛口なドタバタホラーが、ニコケイのふんわりしたビジュアルで緩和される、ココナツミルクの入ったカレーみたいな映画でした。
※この後続けて、IMAXでインターステラ―を観たのですが、宇宙空間で無音になるときに、鬼肩幅スーツのニコケイが薄っすら暗闇に浮かんだ気がして涙腺が緩むという、貴重な体験をしました。