「潜在意識が明晰夢を見せて、それがシェアされる世界線のお話でしたね」ドリーム・シナリオ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
潜在意識が明晰夢を見せて、それがシェアされる世界線のお話でしたね
2024.11.25 字幕 イオンシネマ京都桂川
2023年のアメリカ映画(102分、G)
夢の中に現れる教授が不条理に晒される様子を描いたスリラー映画
監督&脚本はクリストファー・ボルグリ
物語の舞台はカナダのどこかの地方都市(ロケ地はカナダのオンタリオ州トロント)
オスラー大学にて進化生物学の教鞭を取っている教授のポール・マシューズ(ニコラス・ケイジ)は、妻ジャネット(ジュリアンヌ・ニコルソン)と長年連れ添い、ハンナ(ジェシカ・クレメント)とソフィ(リリー・バード)の二人の娘を授かっていた
ハンナは高校に入って彼氏ができたようで、妹のソフィは中学校で演劇部に入っていた
ある日のこと、ソフィが「自分の夢の中にパパが出てきた」と言い出す
聞けば「ソフィが宙に浮いてどこかに連れ去られようとしているのに、パパはただ突っ立っているだけだった」と言う
何もしないことに引っ掛かりを覚えるポールだったが、夢の話だと意に介さなかった
その後、観劇に出向いた夫婦は、その帰り際にポールの元カノのクレア(Marnie McPhail)と遭遇する
彼女は「あなたの夢を見る」と言い、「何もせずにただ突っ立っている」と続けた
クレアはユング心理学を題材にした記事を書こうと考えていて、ポールが夢に出てきたと言う話を書きたいと言い出す
ポールは何も考えずにOKを出すものの、それが思わぬ事態を引き起こすことになった
それは、彼女以外にも多くの人がポールが出てくる夢を見ていて、ただ突っ立っているだけだと言い、それは瞬く間にネット上で拡散されてしまうのである
映画は、何もしないはずの夢の中のポールが徐々に何かをし始める様子が描かれていく
ポールに興味を持った企業が接触し、アシスタントのモリー(ディラン・ゲルラ)は「夢の中のポールは積極的に動いて、二人はセックスした」と言い出す
その再現をするために彼女の部屋に出向いたポールは、そこで失態を演じて退散することになる
だが、その日を境に、多くの人の夢の中で「ポールが人を殺し始め、それに恐れをなした学生たちは授業をボイコットし始める」のである
物語は、自分の知らないうちに誰かの加害者になっていると言うもので、一次情報が悪用されていく現代風刺にも見えてくる
だが、それよりも「夢をコントロールすること」が主体となっていて、それぞれが見ている夢は深層心理の現れになっている
当初ポールが何もしなかったのは、ポール自身に無関心であると言う受け手の感覚があり、さらにポール自身がそれらの夢に無関心だったと言うものが共鳴していた
だが、自分が積極的にセックスをしたと聞かされ、それによって他人に影響を与えることを感じ取ってしまう
モリー自身はポールを好意的に見ていたが、それ以外の人物、特に生徒などは自分の生殺与奪を決める存在だったこともあって、恐怖が増幅されている
キノコの夢を見ていたアンディ(David Klein)は大男(Stephen R.Hart)ではなくポールに殺される夢を見るし、グレタ(Star Slade)は地震が起きる中でポールに襲われると言う夢を見る
そうした先にソフィも父から襲われる夢を見てしまうのだが、これはSNSなどで拡散された「人を殺すポール」の話を聞きすぎてイメージしてしまったのではないだろうか
ポール自身もハンターになった自分自身に襲われる夢を見ていて、これは妻の言う軽率な行動というものを理解し始めたことが原因だろう
最終的にポールは妻娘と別れることになり、そして彼の能力を解析して作られたデバイス「ノリオ」にて、妻の夢に現れようと考える
それがラストシーンへと繋がっていた
夢を覚え、それをコントロールすることを明晰夢というのだが、これは潜在意識が夢に影響を与え、自分自身の願望や恐れなどが映像化されている状態だと言える
ノリオはそれを増幅させることができ、それはより自分の夢をコントロールしやすい状況へと繋がっていく
さらに夢によって人間の世界はある程度干渉しあっていることがわかり、それが相手の夢に入り込むことができるようになっていた
夢の中にダイレクトに現れて商品のPRをするというシークエンスがその世界線であり、その延長線上にノリオが開発されている
実際に干渉し合う夢の世界において、明晰夢的な操作が可能かはわからないが、そう言った世界においてでしかポールの魂は救えないということなので、ハッピーエンドに見えるバッドエンドなのかなと思った
いずれにせよ、前半はわかりやすいスリラーなのだが、ノリオが登場する近未来的な話になると一気に意味がわからない作品になっていたように思う
映画のテーマが「意図しない改変」で、これはポールの著書のタイトルにも現れていて、フランス語訳だから意訳されていた、みたいな感じになっていた
「夢のシナリオ(Dream Scenario)」というタイトルが「Je suis ton cauchemar(私の悪夢)」になっているのもその一環であり、自分自身が発信した情報(本)ですら、人を介在すると歪曲されてしまう怖さがある
それをわかった上で情報(本)と付き合うかどうかを受け手(読み手)のリテラシーとするかは微妙なところだが、今の世の中には自分で考えないとダメな情報で溢れているとも言える
妻にだけ現れなかったのは、友人で学長のブレッド(ティム・メビウス)同様に、夢そのものに興味がないからのように思える
彼らは登場人物の中で長い付き合いがあって継続しているキャラなので、15年以上の付き合い(妹は見るけど姉は見ない)があれば、夢の中には出てこないのかな、と感じた